「歌舞伎町ブックセンター」オーナー
手塚マキさんインタビュー

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靖国通りに面した歌舞伎町の入り口を示す赤いゲート。そのアーチをくぐり抜け、さらに奥へ奧へと進んだ街なかに2017年10月、本屋「歌舞伎町ブックセンター」はオープンした。

ずばり「LOVE」をテーマに、小説やエッセイ、アート、漫画などさまざまなジャンルの書籍400冊を揃える店内では、現役ホストが接客を務め、本を薦めてくれるということも相まって、オープンからテレビや雑誌など数多くのメディアで取り上げられ話題になった。

オープンスペース「jimushono1kai」に併設された同店はその名の通り、歌舞伎町でホストクラブや飲食店など10数軒を手掛ける「Smappa! Group」の会長で、まさにこの街を代表する人物ともいえる手塚マキ氏の事務所の一階に位置する。手塚氏は、もともとこの場所をホスト同士のサロンにしようと、自ら200冊近い本を家から持参し置いていたという。

「もっとホストに本を読んでもらいたい」と、バーカウンターを併設するなど試行錯誤する中で手塚氏が出会ったのが、編集を軸にしたメディアディレクションなどを手掛ける東京ピストルの代表・草彅洋平さんと、校閲会社「鴎来堂」のオーナーで書店も手掛ける柳下恭平さんだった。手塚氏の思いを受け、草彅さんが店舗プロデュースを、柳下さんが選書を担い、歌舞伎町のど真ん中にこれまでにない形の本屋が誕生した。

歌舞伎町に本屋を作るまでの思いと、手塚氏のこれからの未来に向けたクリエイティブな思いについて伺った。


手塚さんご本人も本を読むのが好きだと伺いました。

長い人生の中でみんなそれぞれに感銘を受けた本があると思うけど、例えば小学生の時には「ズッコケ三人組」を読んで、冒険したりするのが楽しいなと思ったのを覚えています。中高生の時だとW村上(村上春樹・龍)にはまって。思春期とかちょっと背伸びしたような時間に憧れていたのかな。今でも海外旅行が好きなんですが、それは20歳くらいの頃に読んだ沢木耕太郎の「深夜特急」が原点かもしれないですね。これまで、ずっと本には親しんできたと思います。

一緒に働くホストたちに「本を読んでほしい」と薦める一番の理由はどんなことでしょうか?

本は「感情の幅を広げてくれる」と思うからです。一行の詩でも長編でも絵本でもいい。ビジネス書でもいいけど、できれば僕は小説がいいと思っています。アートってアートの文脈がわからないと難しいし、映画も、それがどこの国の映画なのか大雑把に見ちゃうじゃないですか。例えば、ロスからNYに移動するシーンがあったとして、それがどれくらいの距離感なのかディティールがわからない。でも本にはそれが書かれているし、さらには自分の中で創ってもいいんじゃないかな、と思うんです。

当初は2000冊を予定していたが「きちんと接客できるように400冊に絞った」という蔵書には、色別の帯がまかれている。

当初は2000冊を予定していたが「きちんと接客できるように400冊に絞った」という蔵書には、色別の帯がまかれている。

中でも小説は一番、想像したり人の気持ちに同化したりすることができる。ホストの仕事も基本的には、全部相手の立場に立って考えるような仕事です。目で見る映像もいいけれど、小説を読んで自分の実体験ではない知らない場所で、出会ったことのない人と同化し、涙できるのはとてもいい経験になると思いますね。僕は「クオリティ・オブ・ライフ」というか、生活の質が高くなって、より楽しくなることが大事だと思っています。人に薦められたり薦めたり、そこから初めて本って読み出すような気がするし、本を読むと心の幅が広がると思います。

左から草彅洋平氏、手塚マキ氏、柳下恭平氏

左から草彅洋平氏、手塚マキ氏、柳下恭平氏

草彅さん、柳下さんとのコラボレーションはいかがでしたか?

脳みそが広がる、そんな感じがしましたね。歌舞伎町に本屋を作るという今回のチャレンジで、僕個人では「誰かと一緒にやる」ということが一番大きかったです。普通いろいろな人たちが混ざり合って仕事を作っていくと思うんですけど、僕たちは今まで全部自社でやっていたので、誰かと、しかも違う業種の人と組んだことは初めてだし、おもしろかったですね。お二人と話すことで自分の考えが広がる感じがすごくしました。草彅さんとは出会って飲み友達になって、カルチャーの話などいろいろ話しましたよ。

「黒」の帯は闇や混沌をイメージした本を。

「黒」の帯は闇や混沌をイメージした本を。

オープン以来、出版記念イベントやトークショーなども行っていますね。

「赤」の棚には情熱や純愛、家族愛が描かれた本など

「赤」の棚には情熱や純愛、家族愛が描かれた本など


店のサイズもちょうどいいし、「LOVE」というテーマもあるのでけっこう依頼を頂いています。でも、今はその企画が好きな人が多いので、ファンと、普段飲みに来ている人や通り掛かりの人、スタッフや歌舞伎町の住人が融合していくようになればもっと化学反応も起こるし、この場所の価値が出てくるかなと思っています。

歌舞伎町のカルチャーの発信元になれれば、そんな思いもお持ちですか?

そうなればいいですね。ここが、歌舞伎町に来てもらう一つのきっかけになってくれればうれしいです。例えば新宿駅から歩いてここにたどり着くまでに充分おもしろい歌舞伎町体験ができるし、現役ホストと話す時間もあるかもしれない。ただ本を買うというのではなく、コミュニケーションを売っていると言った方がいいかもしれませんね。

ピンクの棚にはファンタジーや官能など。会話の糸口にしてもらえたらと、同じ本が黒に並んでいることも。

ピンクの棚にはファンタジーや官能など。会話の糸口にしてもらえたらと、同じ本が黒に並んでいることも。

本屋を作ったことはどのようなことに繋がりましたか?

本屋を作ってみて、予想よりも話題になったのは大きかったですね。新しい出会いに関しては楽になりました(笑)ただ、例えば「本屋で働きたい」といったような、ここを介していろいろな人たちがもっと求人に集まるのでは、と狙ったところもありましたが、それは意外に少なかったんですよね。
うちはホストとか水商売の会社だと思われてしまうので、マネージメントする側の人間やデザイナーなどを集めるのがけっこう難しいんです。僕はずっと街の内側と、そこから広がる外側を意識してやってきたんですけど、会社としてはより「街の中」で何が求められているかが大切です。今の流行や歌舞伎町の中での文脈にちょうどよいものを提供できる、それはちゃんと街の中を見ている人でなければわからないと思うんですよね。だから、僕は戦略にはあまりタッチしなくなっています。現場には、中途半端に僕が今、余計なことを言うと的外れになっちゃうんですよね。また逆に僕自身が歌舞伎町の中に浸かってしまったら今後の可能性に対して意味がない。

同じ会社の中に、いろんな視点を持っている人がいた方がいいと思うし、この書店もそうだけど、僕はクリエイトするのが好きだから、できれば映像を作ったり、デザインしたり、歌舞伎町の何かこう全体を牽引するようなものを作るというか、そういうことはしていけたらと思っています。
本屋を作ったようにカウンター的に何かできるもの、歌舞伎町の中も外もいろいろ見てきた上で、自分なりの感性でおもしろいなというものを、一緒にクリエイトできるようなチームが一つ持てると、僕はみんなの経営を邪魔せずに、完全にモノ作りだけをして、会社はもっと儲かると思います(笑)

これから先、どんなイメージを持って進まれようと思っていますか?

歌舞伎町って、誰かがどうこうできるような街じゃないと思います。働いている人たち、またこの街にいる人たちが、共通に感じている歌舞伎町の街の文脈によりそって、いろいろな所でいろいろな人が勝手にやっていることの集合が、この街の全体を形成しているように感じます。リアル多様性ですね。リアルダイバーシティなんです。だからこそ「未来型な都市」のような有様とも言えるし、自然にそうなっているところが面白いと思うんです。

だけど一方で、この「多様性」って、ある意味「無関心」ということと表裏一体のようにも感じています。例えば、代官山や神宮前では、そこにいる人は男の子も女の子もその街っぽい格好をしていると思うんです。他者なり街に関心があることで、ファッションとか、よりその街らしいものが育まれ、独自文化として尖っていく。さらにはそこから街のカルチャーが発展しているように感じます。だとしたら、歌舞伎町にはそれがないんです。他者とか街に「無関心」であるがゆえに発展する文化にならない。この街の中では良くとも、一歩外に出ると途端に「ダサイ」ということがあることを、これまでに何度も感じてきました。

だからそういう中で、僕は街の文化をちょっとだけでも押し上げられたらと思っているんです。何かを作り出していくというのではきっとない、むしろ歌舞伎町の街の中に、多種多様に散らばる面白いものに関心を持って注目し、発掘したり採集したりして、さらにもう少し面白いものに昇華して紹介していくようなことをしたいと思っています。それは、面白い物件だったり、人だったり、それが自分の店じゃなくてもいいし、外から誰かが来て何かするようなことでもいいと思う。

うちの会社にも、いずれ歌舞伎町から外へ出て行くスタッフもいるでしょうから、彼らが多様な人が織りなすカルチャーに、関心を持って触れることが出来たら良いと思うし、歌舞伎町の外の人が関心を持って面白いって言ってくれたら、それも気持ちいいとも思っています。自分の存在意義じゃないけど、働いている場所だから、この街がもっと「面白い」って思われたいですね。

歌舞伎町は、僕にとってもちろん仕事場でもあるのですが、最近は遊び場としての意識の方が強くなってきました。この街を客観的に捉えられるように、意識してやってきた部分もあって。今の歌舞伎町は、多くのみなさんが飲みに来る街です。だから、飲み屋をベースにしても、飲むだけでないコミュニケーションが生まれたりしたらいいなと思います。ここも本屋でもありつつコミュニケーションスポットなんです。この場所を通じて僕らの中でも交流が増えたり、歌舞伎町の中と外が混ざり合ったりして、このエリアに交錯する多様なカルチャーに注目するお手伝いができたら楽しいと思いますね。

【プロフィール】
手塚マキ氏

ホストクラブ経営者、JSA認定ソムリエ、歌舞伎町振興組合理事。1977年 埼玉県生まれ。中央大学理工学部中退後、歌舞伎町のホストクラブで働き始める。入店から一年後、同店のナンバーワンとなる。2003年に独立後、現在は歌舞伎町を中心にホストクラブ、BAR、飲食店、美容、ワインスクールと幅広い分野で活躍。新宿がダイバーシティの世界最先端だった頃を取り戻すべく歌舞伎町の文化を発信するなど、ニューリーダーとして街づくりにも関わりが深い。著書に『自分をあきらめるにはまだ早い 人生で大切なことはすべて歌舞伎町で学んだ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。