「PAST AND FUTURE」上田大樹監督
インタビュー #1

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2015年末に解体が始まった「新宿TOKYU MILANO」を舞台に、日本発・世界的に活躍するダンス・パフォーミング・アーティスト集団「WRECKING CREW ORCHESTRA(レッキンクルーオーケストラ、以下WCO)」のリーダーYOKOIと、WCOから誕生した‘光るダンス集団’「EL SQUAD(イーエルスクワッド)」の出演による3分54秒の映像作品が密かに制作されていた。


この映像作品を監督したのが映像作家上田大樹氏だ。上田氏はさまざまな演劇の劇中映像、ミュージックビデオ、またCMのディレクションなどを手掛ける映像作家であり、映像ディレクターとして2017年現在、最も話題の人物の一人だ。上田大樹氏を監督に迎えて制作された本作品のタイトルは「PAST AND FUTURE」。まさに、過去と未来を上田氏とYOKOI+「EL SQUAD」が、見事に表現している。


 舞台となった「新宿TOKYU MILANO」は、58年の歴史に幕を下ろし、2014年に営業を終了、この地は次なるステージに向けて、再生されるのだそうだ。「PAST AND FUTURE」、まさに本サイトの一大テーマである。「新宿 TOKYU MILANO」は新宿歌舞伎町という東京の一大歓楽地に、スケートリンク、映画館、ボウリング場などを有し、昭和~平成時代の人々が求めたエンターテインメント発展の映し鏡のように栄華を極めたシンボリックな建物であった。そしてこのビルが解体され、次に向かおうとしている。これは新宿歌舞伎町の「PAST」の貴重な記録であり、またその解体されゆくビルをメタファーとして、「FUTURE」を語るダイナミックな映像作品として創られている。


上田監督の中にある「PAST AND FUTURE」とは?

「解体しようとしているビルの中でWCOが踊ったらかっこいいよね」から始まった。

(この映像作品を)撮られたのは一年近く前、まさにビル解体のさなかだったと伺いました。歴史ある建造物の痕跡を、映像に残しておこうという話だったそうですが。
そうですね、以前から舞台などで一緒に仕事をしているWCOのYOKOIさんから「一緒にやらないか」と声をかけてもらって。過去の写真などを見せてもらいながら、どんな映像を作るか話し合うところから始まりました。
どんなコンセプトで映像を作ろうと思われたのですか?
最初はシンプルに「解体しようとしているビルの中でWCOが踊ったらかっこいいよね」というイメージでした。多くの人が知っているだろう「新宿TOKYU MILANO」という建物の中ですからね。そういう場所でYOKOIさんがダンスをして、「ELSQUAD」のパフォーマンスを見せられたらと。それくらい単純なコンセプトでした。
 EL SQUADは電飾を身にまとうという(斬新な)衣装だったりすることもあって、彼らを通して、歴史のある建物にかつてあったもの、そういう「過去」が、解体された先の「未来」へとつながっていくような感じのものを、うまく映像で作れたらいいな、と。
 解体後、どういうものができるのかはまだ具体的に聞いていなかったので、現状を踏まえ、建物、もしくはその場所の「未来への予告編」的なものになればいいよね、と話しました。

映像を撮ることが決まってから、現場へは下見に?
はい、行きました。でも中に入ってみたら予想以上にもうだいぶ廃虚で(笑) 最初にお話を頂いた時に見せてもらった写真は、まだ取り壊しが始まった頃でいろいろと残っていたんですよね。それで「これはおもしろいな」と思っていました。
それが思った以上に解体が進んで廃虚になっていた・・・。実際にその様子を見ていかがでしたか?
おっと、これは思ったよりなにもないぞ、どうしようって。先ほどお話したように、みんなが知っている場所だからこそ、その中で踊るだけでおもしろさがあるのではないかとイメージしていました。
 それこそ巨大な映画館だったりボウリング場だったり、広い館のそこら中でパフォーマンスができるので、「自分たちが知っている場所」が変わって見えたら良いな、と思っていました。
 壊し始めつつある場所を背景にパフォーマンスを見せて、過去と現在の二つの時間軸が重なるような感じを始めは撮ろうと考えていたんですが。
映像に映る廃虚は、デカダンス(退廃的)な雰囲気もあっておもしろく見えました。
そうですね。画としてそれはそれでおもしろかったですけどね。下見に行ってから、実際に撮影に行くまでの間にもさらに解体が進んでいて。ボウリング場なども、元の感じはもうほぼなくなっていて、がれき置き場になっていました。それでも、映像の流れ的には思い描いていたイメージをそれほど変えるようなこともしませんでした。
 この建物は、学生の頃など、何度か来たことがあるんですよね。関係者の方に、人が大勢集まって相当賑わっていた時代の、建物周辺や館内の写真も事前に見せて頂いていたので、廃虚の中に立って、なんだろう「怖い」というのとも違う、何か感慨深いものはありましたし、歴史の重みも感じました。
 解体中に廃墟をそのまま撮ると、そういったかつての場所の雰囲気がよくわからないので、昔の記録写真を入れたり、廃虚の壁に当時の様子がわかるような記録写真映像をプロジェクターで映したり、ただの「廃虚」に見えないように心がけました。「昔」と「今」を強調したというか、そこはYOKOIさんと話しながら念入りに進めましたね。

映像の始まりでは、そんな建物の昔の写真を手にした少女が登場します。写真の中の過去の「新宿TOKYU MILANO」と、今の様子がオーバーラップしていますね。
YOKOIさんにしても、「EL SQUAD」にしてもどこか現実感がないような感じもあるので、この場所とパフォーマー、そして映像を見る人と彼らを繋げる要素を入れたいと思って。それで「昔の写真に写る場所」が今どうなっているのか見比べにくるといった意味の、そんな少女の姿から映像を始めました。
少女が手にする昔の写真に、帽子の男性が紛れ込んでいる写真も見られます。この男性はYOKOIさんですか?
はい。このYOKOIさんは過去にも現在にも、どの時代にも存在する人、というイメージです。ある意味「時を超えてこの場所を見守っている人」のような設定ですね。少女が昔の写真を見たらその中にいるけど、ふと前に目をやると、今そこにもいる、というギミックです。
 そんな彼が廃虚の中で踊りながら、その場所の過去の記憶のようなものを解き放っていく展開です。

 

YOKOIさんのパフォーマンスをしっかりと見せるシーンは、1000人以上の座席があった映画館「新宿ミラノ座」の中で撮りました。(館内にあった4つの映画館の中で最大規模の劇場)ここも、ほんとは赤いカーテンが下がっていたりしたので、そういう設備や客席といった映画館の痕跡がもう少しある状態でやりたかったというのはありますね。でも廃虚とダンスとがおもしろいコントラストになりました。

過去の記憶に踊る、そして未来に踊る。

撮影にはどれくらい時間がかかりましたか?
朝7時くらいに集合してその日の夜9時くらいには終わったんじゃないかな。WCOは普段大阪を拠点にして活動されているので、彼らは大阪から来てくれました。
 場所の制約もあるし工事も止められないので、そんなに長くはかけられなくて、解体が進む中で撮りました。解体中のため電源も最小限しかなかったので、電源を持ち込んだり、小さいプロジェクターを持ち込んだりして。


 今回の作品の音楽は、WCOにも曲を作っている(ピアニストでコンポーザー、アレンジャーの)小林岳五郎さんが担当して下さいっていますが、実は一番先に出来たのが音楽でした。YOKOIさんは音と動きの関係をとても大事にしますし、「EL SQUAD」のダンスパフォーマンスの性質もあるため、先に音楽があって、音に合わせて振り付けや構成を考えていくという進め方をしていて、YOKOIさんと小林さんがディスカッションしながら音楽を作っていくところからスタートしました。
ミュージックビデオ的な作り方でもあったわけですね?
今回はそんな感じの部分もありますね。でもYOKOIさんの演技部分はほとんど即興なんじゃないかな。「新宿TOKYU MILANO」の廃虚、あの空間で体感したままに踊っていたのではと思います。ご本人に聞いてみないとわかりませんが(笑)ここが見どころだと思います。
「EL SQUAD」の登場は後半ですね。
そうですね。最初のコンセプトでは、「新宿TOKYU MILANO」が建て替えられて、何か新しい場所が出来た時に、「EL SQUAD」チームがパフォーマンスを披露できたら、という思いもあったので、映像はその「予告編」的なニュアンスもあるかなと考えて。
ちょうど、前半のYOKOIさんのパフォーマンスが「過去」に向けて、というか「過去の記憶」に対して踊っているようなイメージだったので、後半の「EL SQUAD」は「未来」に向かったイメージになったと思います。
 だからただ完全に未来だけのイメージっていうことではないんですよね。過去の歴史の積み重ねを映像の前半、廃虚の中できちんと描いてきた上で、最後に「EL SQUAD」のパフォーマンスを見せて「FUTURE」を感じさせられたら、という思いです。

「未来への予告」でもあり、「WCO」や「EL SQUAD」の次なるパフォーマンスの予告といった期待感もありますね。
だから本当は、さらにこの続きが作れたらと思っています。続編というか。この短い作品の中でももっといろいろやりたいことはあったけれど、特に「EL SQUAD」は最後の方でしか撮っていない。まず「予告編」、一発目として先へつながる何かを予感させつつ、お楽しみを貯めている感じはありますね。次は「EL SQUAD」ももっと長いパフォーマンスを見せられたらと思っていたりしています。
まだまださまざまなイメージと、パフォーマンスがたくさんありそうですね。
今回は非常に短い時間しか出演してもらっていないので、「EL SQUAD」には、一番彼ららしいオーソドックスな動きをお願いしました。普段彼らは、本当に何もない舞台や最小限のセットの中で照明を落として踊っているので、彼らも廃虚の暗闇の中とはいえ、映画館とかリアルな空間での踊りは新鮮だったみたいですし、廃墟の古さとEL SQUADの新しさが面白いコントラストになったと思います。
 彼らは、衣装も、まだまだ違ったタイプのものをどんどん開発しているし、それに合わせて振り付けもだいぶ違っていきます。今回は5人で踊っていますが、もっと人数が増えると複雑な動きになったりするので、かなり興味深い。これからそうしたパフォーマンスも見てもらえたらと思います。僕は見る機会が多いですが、それでも至近距離で見るといつも驚きがありますよ。

インタビュー#2へ続く

【プロフィール】
上田大樹(うえだ たいき)
映像ディレクター・アートディレクター。

ミュージックビデオやTV番組のオープニングなどの映像作品を多数手がけるほか、Mr.children、いきものがかりのライブやワンピース展の映像演出、CHANELの国内・海外店舗のためのアニメーション、劇団☆新感線・大人計画・NYLON100°Cなどの劇中映像など、映像と空間を融合させた演出を多数手がける。

近年手がけたものに『髑髏城の七人 Season鳥』、東京大学プロモーションビデオ「UTokyo/Society」、8K解像度ドラマ「囲むフォーメーションF」などがある。

 関連リンク 
「アンドフィクション株式会社」http://andfiction.jp/