「新宿アルタ」から程近い「新宿モア4番街」で9月21日、「あゝ、デンジャラス祭り」が行われた。路上を一日封鎖し、延べ120人が新宿の真ん中で屋外映画上映を楽しんだ。
今回の企画は、世界25カ国、52の映画祭が熱狂したデンジャラスな傑作短編ドキュメンタリー3本を一挙に公開する上映企画「Dangerous Docs(デンジャラス・ドックス)」と、寺山修司唯一の長編小説「あゝ、荒野」を原作に、新たな舞台設定で撮りおろした、岸善幸監督の同名の新作映画がコラボし、実現した。
同イベントを企画したのは、ショートフィルムなど映像作品を中心に手掛ける神宮前プロデュースで、「デンジャラス・ドックス」3作品のうちの一つ、「渦」の製作も同社が手掛けている。
代表の辻本好二さんは、「ドキュメンタリーというジャンルが、世界の映画祭で高い評価を得てもなかなか日本で公開されるチャンスが少なかったため、『渦』とも通じ合う「デンジャラス」をキーワードに短編を集めて上映しようと企画した」と話す。
日本在住のフランス人監督ガスパール・クエンツさんが、愛媛県松山市道後で行われる秋祭りを主題に撮影した『渦』は、「男たちが大神輿を激しくぶつけあう過激な祭りを、外側からでなく内側に深く入り込み、まるで祭りの中にいるような感覚になれる作品」と辻本さん。
「デンジャラス・ドックス」はほかに、ベルリン国際映画賞2016・短編部門で銀熊賞を受賞したレバノン映画「男が帰ってきた」と、現代のロンドンを舞台に6つのストーリーが展開するイギリス映画「シット・アンド・ウォッチ」で構成される。
『あゝ、荒野』は、菅田将暉さんとヤン・イクチュンさんのダブル主演。10月7日から前篇、後篇と各2週間ずつ、新宿ピカデリーほかで限定連続上映した作品。幼い頃、母に捨てられた「沢村新次」と、吃音と赤面対人恐怖症に悩みながらも自分のあるべき姿を追い求める「二木建二」が新宿で出会い、心の空白を埋めようとプロボクサーを目指す物語。
原作は1966(昭和41)年の新宿が舞台だが、同作品は東京オリンピックが終わった2021年の新宿を舞台に、新たな物語として製作している。岸監督は「原作を読み返してみると、かなり現代に通じるものを感じる。東京オリンピックが終わって表出するかもしれない不安とか断絶のようなものを、祭りのあとの我々を想像しながら映像化したいなと、そのための2021年だった」と話す。
路上上映について辻本さんは、「同企画を立ち上げた時に、ただ映画館で上映するだけでなく、何か興味を持ってもらえるための積極的な働きかけができたらと考えた。偶然開催場所となるモア4番街を通りかかった時にお祭りをやっているのを見て、新宿の空の下、路上をジャックして上映できたらおもしろいのではないかと思った」と開催のきっかけを振り返る。
「その後、まさに歌舞伎町でも撮影を行った映画『あゝ、荒野』から、イベントでコラボできたらとお声掛けいただいた。新宿は人通りがずっとある場所。偶然通りかかった人にも足を止めて鑑賞してもらえたらと思った」とも。
当日は路上にレッドカーペットならぬ黄色い絨毯を敷き、5メートルの大型ビジョンを設置。黄色いテープを張り巡らせ、各回上映前のカウントダウン時には雪を降らせるなどの演出も行い、約27分の「渦」本編を2回と、『あゝ、荒野』スペシャルダイジェスト版約56分を2回上映した。
用意した椅子に着席した参加者にはワイヤレスヘッドホンを配布し、爆音上映を楽しんでもらったという。担当の柴亮輔さんは「座席を取り巻くように足を止めてくださった多くの通行人も、無音ながら迫力ある映像を楽しんでいただけたのでは。新宿の街なかでの上映中に、人の集まりが大盛況ながらどこよりも静かという不可思議な空間ができあがった」と話す。「終了後は、満足げに感想をスタッフまで伝えてくださるお客さまもいらっしゃった」とも。リアルの街中に、映画界から興味深い野心的なイべントが企画された。
映画『あゝ、荒野』より。制作・配給:スターサンズ。@2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ
短編ドキュメンタリー映画「渦」(ガスパール・クエンツ監督)のワンシーン