WRECKING CREW ORCHESTRA/EL SQUAD YOKOI氏
インタビュー

2017.10.19

日本のストリートダンスシーンに、ひと際高度なスキルを持った8人で構成されたダンサー集団「WRECKING CREW ORCHESTRA」(WCO)が誕生したのは2003年。日本全国のみならずワールドワイドな活動を行った先駆け的存在であり、それまでの日本のダンスシーンでは誰もやったことがなかった「大型舞台公演」を10年もの間成功させるなど、その存在は唯一無二と言えるだろう。

「WCO」から生まれた‘光るダンスパフォーマンス’チーム「EL SQUAD」は、その動画がYoutubeにアップされるや、瞬く間にその存在を世界に知られることとなった。ソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「Xperia」のテレビCMにも起用され、多くの人がその姿に注目した。

まさに「かぶき者たち」として、日本のダンスシーンに新しいムーブメントを起こし続ける「WCO」と「EL SQUAD」。本サイトSPECIAL CONTENTS – ORIGINAL PRODUCTION「MOVIE」制作にご協力いただいた「WCO」、「EL SQUAD」チームのリーダーとして、また一人のトップダンサーとして、ダンスと舞台に熱意を注ぐYOKOI氏に、その「かぶいた」思いを聞いてみた。

トップダンサーだけで構成された「WCO」、その誕生のきっかけをぜひお聞きしたいのですが。立ち上げは2003年と伺いました。

僕たちは10代の頃から本格的にダンスを始めたストリートダンサーです。ストリートダンスっていろいろなジャンルがあるんですよね。ヒップホップ、ロック、ハウス、ポップとか。当時のダンスシーンってまだそんなに大きくなかったので、違ったジャンルでもダンサー同士仲が良かったんです。
ちょうどその頃始まった「JAPAN DANCE DELIGHT」というコンテストにみんな出るようになって、戦友というか仲間も増えていって。

それぞれのジャンルで実力をあげていったそんな仲間たちと、20代後半になって「これから俺ら、どこに向かっていくんだろう」って話す機会が増えたんですよね。ダンサーはまだまだアンダーグランドなシーンでしか見てもらう機会がなかったし、拠点が大阪だったのでテレビのバックダンサーや振り付けも少ない。生きていくにはダンスインストラクターしかないんです。

「でもそれでいいのか?」って。「ダンスが大好き」っていう強い思いを持ってやってきた人間たちと「なんか新しいことができへんか」と話し続けてたどり着いた答えが「舞台」だったんです。

その頃「ROCK STEADY CREW」という、NYのヒップホップ創世記からいるようなチームが唯一「JAM on the GROOVE」という「舞台」で世界をまわっていました。ヒップホップカルチャーを集結させたような舞台だったんですけど、メインはダンスです。
来日したその舞台をみんなで観に行って「ダンスだけで、言葉もなくてこんなおもしろいことができるんだ!」って感動しましたね。それで始めたのがWCOです。

「舞台」でどうダンスを見せていこうか、と考えられるわけですね。

今までのダンスは5分、10分のショー的作品だったものを、舞台上で90分見せなきゃいけないってことになった時に何をするべきか。そこを考え始めた。そして試行錯誤しながら、舞台の90分に見応えのある作品の構成を考えていったんです。そして最初の公演に結実していくんです。それが今にまで至るのですが、実は結論はまだなくて、いまだに真の答えが出ないようなところでもあるんですけど(笑)

結成した年に、とにかく「ダンスってこんなにおもしろいんだ!」というのを見てもらいたくて、ダンスの要素をいろいろ構成して初めての舞台「ID」を作りました。「ID」=アイデンティティ、つまり自分たちが生きてきた証というのがコンセプトで、そこに最終的に出る答えというのは「I am a Dancer」というもの。


いろいろなジャンルの短いダンス作品を、さまざまなアイディアで見せようと寝る間も惜しんでただただがむしゃらに作り上げてやりきりました。ステージにあがって拍手をもらって、そのときはまずそれだけで満足でしたね。初日が終わっただけで泣いているメンバーもいましたから。笑

そこから先、誰も見たことのない新しいダンスの世界を切り開いて来られました。

僕はそこから舞台公演にとりつかれた男なんです。常にダンサーがやったことのないことの「何か」にチャレンジし続けてきたように思います。
俳優の方たちに表現の場として、またお客様とのコミュニケーションの場として舞台がある、それをダンスも取り込んでみようと「舞台」という形を実現することを意識しました。そして、「舞台」の次に考えたのは音楽家たちの表現の場であり、お客様とのコミュニケーションの場であるライブを取り込んでみたいと思いました。そこで次のプロジェクトは、ダンサーだけの「ライブ」になりました。ミュージシャン、ミュージックアーティストと同じように生で踊るだけでお客さんを盛り上げられたらと、音楽も全部生バンドで「M.O.A.L.I.V.E」(2004年)をやりました。その次に考えたのは、ドラマ、演劇、映画にある「物語」をダンスに取り込むことでした。それで2005年には「ストーリーのあるもの」をと考えて「daft-line」を作ったんですが、これは結果的にはものすごく不完全燃焼で終わってしまいました。自分たちの思っていたことが言葉なしではなかなか思うようには伝わらなくて。この不完全な思いは、後々につながっていくんです。

その後も、「ダンサーの全国ツアー」や「ダンサーだけのDVD製作」、それから「ID」や「M.O.A.L.I.V.E.」の再演など、新しいことに取り組みました。
演劇のように、「再演」とか「ロングラン」っていうダンス公演のシステムを作り上げたくて。コンセプトがしっかりしていれば、何回やっても見てもらえる、これは満足感がありましたね。

2013年には、10周年の節目も迎えられましたね。

はい。記念の年には、毎年1つだった舞台を2つ作りました。1つは、いつものように何十人と出演する大型公演でなく、「WCO」のメンバー8人だけで見せる、僕たちの魅力がたくさん詰まった舞台です。

そしてもう一つが「daft-line」のリベンジじゃないけど、ストーリーのある舞台「COSMIC BEAT」。8年が経っていろいろな舞台を経験し、実力が上がっただけの進化は見せられたんじゃないかな。満足感はありつつ、また新たな可能性も見えた舞台でしたね。

10年続けてきて、2014年の「DOOODLIN’」は今までのすべてを凝縮して、さらに新しいものを取り入れたような強烈なダンスだけの舞台になったと思います。映像やプロジェクションマッピングを使った、ほんとにかつてない大掛かりな舞台でしたね。

「WCO」として未知の領域にチャレンジされる日々の中で、あの‘光るダンス’「EL SQUAD」が誕生したきっかけは何だったのですか?

2011年の「FAKEST」(=最上級の偽物)という舞台で生まれたのが後の「EL SQUAD」です。ちょうど「WCO」メンバーのSAWADA君が、自分が教えているダンススタジオの発表会で光るワイヤーを身体の形に這わせて踊っているのを見たんですよね。

当時ミュージシャンがELワイヤーを這わせたコスチュームでライブパフォーマンスするというのが流行り始めていたので知ってはいました。でも目の前で、踊りながら手動で光をつけたり消したりしているのを見たら「なにこれ、めっちゃおもろいやん!」って。それで作品を作ってみたのがきっかけです。

最初は手動で、むちゃくちゃアナログでした。でも披露した時、お客さんがそれはもうものすごい盛り上がってくれて。
知り合いのプログラマーに相談してELワイヤーのシステムプログラムを作ってもらうことができて、それでより完成度の高い「光るダンス」作品であるショーをやれたんです。その時に撮っていた動画が、後にYouTubeで世界的に爆発した映像なんです。

アップしてあっという間に1万回超えて、喜んでいるうちに10万、20万って増えていきました。「これは大変なことが起きるかもしれない」って、爆発した瞬間は寒気がするような感じでしたよ。振り付けや演出は僕が手掛けていますが、「WCO」とは別メンバーなので、「EL SQUAD」として名前がついて、今は12〜13人メンバーがいます。動画もすでに5500万再生を超えました。

「WCO」と「EL SQUAD」、これからどんな未来を描かれていますか?

2015年に自分たちのダンススタジオが出来上がったんですね。ダンスの養成学校も開いているのでその活動ができて、アートスペースとして小さな舞台もできるような場所です。これまで続けてきた大型の舞台とは違う、もっと実験的なこともやりたいなと思っていて。演劇で言う「小劇場」的な機能のスペース。
また、ダンスを大きな空間に持っていった実感として、これはとても大事なことだったと思っていて、大きなスペースでやり続けたいとも思っていますが、実験的にも、お客様が気軽に来てみていただける意味にもなる「小劇場」機能も大事だね、と。

去年そこで「EL SQUAD」単独の舞台「ILL-EGAL ABIL-ITY」という作品を創ってお見せできたので、今度は逆にこれを大きなホールで公演できるようにしようと取り組んでいるところです。「小劇場」スペースはこういうように機能させていこうと。

「光るダンス」が世界的に知ってもらえて広まったことは素敵だけど、それだけやっていればいいってことじゃない。新しいものを生み出しながら、今はそれが一つのジャンルというか、流行廃りではなくてスタンダードになれるくらいまで引き上げていきたいな、と思っています。


「EL SQUAD」って「スーツ着て顔も見えずに、誰が誰かもわからない。そんなん何が楽しいの?」って言われることもあるんですよ。

でも、実は自分たちも実際にあの衣装を着てパフォーマンスをやってみてわかったんですけど、表情が見えていない分、まったくごまかしがきかない厳しさがあるんです。

顔が見えていると踊っていても、「顔」で悲しそうとか怒っている、楽しそうというのを表情で見せることができます。その「顔」がないからこそ、自分のダンスがすべて出てしまう。そういうことに気がついてからこれはおもしろいな、と思って。

それで気がついたのは、「EL SQUAD」のパフォーマンスは「文楽」といったものに近づいていく、ということなんですよね。人形の顔や形は決まっているけれど、光の当て方やどんな角度で見せるかで、その人形が笑っていたり、悲しんでいたりするように見える。僕らがやっていることもまさしく同じことなんですよ。

顔が見えていると顔で表現できる。しかし、顔が見えていないと、顔で表現する部分を、身体の動かし方、手足の動かし方だけで、この感情をきちんと表現できるか、そういうところにどんどん行き着いていく。だからこそスーツをまとっていると普通の表現と違うものに思われがちなのですが、実はよりパフォーマンスの精度を高めないとならない試練があって、そういう意味ではより「アナログ」なんですよね。顔の表情が見えないからその表現ができないわけではなく、顔ではない部分でどう感情表現を作っていくのか、よりパフォーマンスが高度になっていくことがよくわかったのです。実は、皆さんにもそこを見ていただきたいですね。

おもしろいことに、スーツを着ていても、ダンサー本人の実力や持っている世界観で、立ってるだけで全然雰囲気が違うんですよ。

だからメンバーにもすごく言います。「自分が何者なんだというコンセプトをしっかり持たないと、ダンスの実力とか技術だけでなんとかしようと思っても、何も出えへんぞ」って。

ダンサーに限らず、日本には日本人さえ知らないようなすごいクリエイターがたくさんいると思います。僕らもまさに「かぶきもの」だと思うし、これからも人と違うことを日本から世界へ発信していけたらと思います。
【WRECKING CREW ORCHESTRA プロフィール】

YOKOI DOMINIQUE、HANAI、TAKE、SHOHEI、BON、SAWADA、U.Uの8人で構成される世界一ハイスキルなダンスアーティスト集団。 2003年に結成。大阪に活動拠点を置き、日本のみならず世界中を舞台に活躍する。
その活動はダンス界だけに留まらず、ダンスアーティストとしては史上初めての公式アーティストとして「SUMMER SONlC」へ出演する他、米国、ヨーロッパでのSHOWCASE、シンガポール政府からの6年連続の招致、香港ワールドトレードセンターでのカウントダウンイベントゲスト、全国ツアー、舞台公演、スポーツブランドとのイメージキャラクター契約など、常にダンスシーンのトップを走り続ける。
年齢や性別はもちろん観る者すべてを虜にし、ダンスというノンバーバル(無言語)の特性を存分に活かした、言葉の壁を飛び越えたパフォーマンス集団として、世界中のダンスシーンに影響を与えて続けている。既存のカテゴリーにとらわれない、新しいアートを生み出すことを目的とした、ダンスエンターテイメント集団である。

【EL SQUAD プロフィール】

トリッキーなダンス映像が一切CGを使っていないことで脚光を浴びた「Xperia」のCMなどで、世のアーティストたち と肩を並べ、YouTubeにおいてはわずか2ヵ月で500万ビューを突破する(2016年7月現在リキャプチャー動画もあわせて本映像のビューは5500万を超える)など、ダンサーとしては稀に見る経歴を持つ。
光のダンスを含むオリジナルの舞台公演は「FAKEST」(2011年-日本、2012年-日本、香港)、「COSMIC BEAT」 (2013年-日本)、「BEAT BUMPER」(2013年-日本、2014年-日本、マレーシア、2015年バーレーン)、 「DOOODLIN’」(2015年-日本)、「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」(2015年、2016年- 日本)と立て続けに好評価を得ている。2016年5月には彼らの初となる自主公演「ILL-EGAL AB-ILITY」を成功させ、 すぐさま同年7月に再演となった。

 関連リンク 
「WRECKING CREW ORCHESTRA」 http://wreckingcreworchestra.com/

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
歌舞伎町文化新聞編集部の略称アイコンです。

PAGE TOP
GO HOME