(新宿区文化観光産業部 副参事〈にぎわい創出等担当〉 淺野祐介さんに聞く)
始まりは9日間の学生アートコンペティション
年々その規模を拡大し、2017年は新たに12名のアーティストを加え、過去最多29名のアーティストが参加して行われたアートイベント「新宿クリエイターズ・フェスタ2017」。
学生から世界的に有名なアーティストの作品まで、まち中の路上で、ギャラリーで、高層ビルのアトリウムで、気軽にアートに触れ合うことができる美術イベントとして、着実にブラッシュアップしながら回を重ねてきた。
新宿の歌舞伎町、東口、西口、南口各エリアにまたがり、街を挙げて開催される同イベントは124万人の来場者を数え(2016年は119万人)、8月から10月までの2か月間にわたり開催された。
すべての始まりは2011年、学生向けにアート作品を公募、審査員による審査と一般からの人気投票を実施し、そのコンペティション作品を公共空間に展示するという9日間のアートフェスタだった。
『学生クリエイターズ・フェスタ in 新宿2011』と名付けられた記念すべき第1回は、歌舞伎町周辺を舞台にした、今よりまだずっと小さな規模のものだった。
遡ること2005年、「歌舞伎町ルネッサンス」という取り組みが新宿で立ち上がった。「歌舞伎町を誰もが安心して楽しめるまちに再生する」というコンセプトの下、歌舞伎町が〝エンターテイメントシティ″として大衆文化や娯楽などの発信拠点となるような、新たなまちづくりの実現を目指した。「新宿クリエイターズ・フェスタ」もその事業の一環として、アートを切り口に学生の自由な発想・想像力でまちに賑わいを生み出そうと位置づけられたのだった。
副都心線が繋がったことで、東京芸術劇場を有しアニメ関連のコンテンツも力強く発信する池袋や、町全体を新しくしていこうという勢いがある渋谷と並び、新宿が埋もれてしまうのではという危機感も地元にはあったのだという。
制作にある程度の期間を要するアートイベントながら、毎年開催してきたのには、行政、地元の商店街の「新宿クリエイターズ・フェスタ」を街に根付かせ、広く認知してもらおうという思いが込められていたのだった。
初年度は『繋がりの誘発』をテーマに、「空間デザイン」「デジタル映像」の2部門で集めた作品を展示したり、シネシティ広場に設置した20台の小型モニターで映像を映し出したりしたほか、ゴールデン街の文化が体験できる体験プログラムを用意、また学生サウンドライブなども行われた。
世界的アーティストの参加、子どもたちにもアートを
新宿という街をアピールする学生のアートフェスタは、2年目には早々に大躍進する。学生だけでなく世界的なプロアーティストの出展や子ども向けのコンテンツが組み込まれ、開催エリアも広がりを見せた。
同年より続けられている子ども向けプログラムは、この年初参加の蟹江杏さんの存在が大きかったという。
3年目となる翌2013年には、草間彌生さんの作品をメインビジュアルに使い、フェスタで世界初公開となる新作の展示も行ったほか、新宿を世界に発信する写真家、森山大道さんのヴィンテージプリント・コレクションも展示された。こうしてフェスタは、「アーティスト展」「こどもアート」「学生アート」「まち中アート」と、4つの軸が生まれ、この年からこの4つの軸で展開されるようになった。
「ライブ感」を意識した2017年のフェスタ
プロアーティストによる出展は大きな目玉ともなり、約2週間の開催期間についても「これだけ多くの人が関わってくださっているのに、短い期間で終わってしまうのはもったいないのでは」という声も出てきたという。
そうした中で2017年は、毎年足を運ぶ来場者が新たに楽しめるコンテンツをと考え、「ライブ感」を打ち出すことを意識したという。
中でも、第一大久保ガード(職安通りの線路の下)の壁画は圧巻でした。これは、イタリアを拠点に活動されていたストリートアーティストのMOT8(モトエイト)さんに、日常的に落書きが多い壁をなんとかしたい、暗い雰囲気を明るくするために壁画を描いてもらえないかと相談し、MOT8さんにご快諾いただいたことから実現したものです。2016年にも新宿モア4番街の配電盤2基にペイントしていただいたのですが、今回は、イベント開催中、1か月間かけて『歌舞伎町』にちなんだ『歌舞伎絵』を中心としたダイナミックな作品を、約40メートルの壁面に描いていただきました。そしてそれは、イベント終了後も引き続きお楽しみいただける作品になっています。
作品が完成していく過程や、アーティストの表情などを見られる貴重な機会になったと思います。
また2017年は、「新宿クリエイターズ・フェスタ」として初めての常設パブリックアートも設置された。
鎌田恵務さんが手掛けた、平和を祈るピースサインをモチーフにした造形作品『Hand of Peace』を新宿センタービル公開空地に設置。
皆さんに馴染みのある新宿アイランドに建つ造形作品『LOVE』のパブリックアートと合わせて散策し、『LOVE』&『PEACE』をセットで写真を撮ってもらえたら。
新宿の未来のまちにもっと気軽にアートを
フェスタ会場としては新宿駅を中心に広がりが出ているものの、スポットイベントが点在し、またそれぞれが期間内に同時に開催しているわけではないので、各イベントを点で終わらせることなく、期間の中で回遊できるような工夫もこれからの課題と考えています。
今や、いろいろなカテゴリーのアーティストの方が出展してくださっているので、出展作品全体として統一したテーマがないところが、むしろプラスなのではと受け止めて企画しています。新宿はまちそのものが良い意味で雑多で、様々なものを受け入れるという寛容な土壌があると思っています。新宿に来れば様々なアートに触れられる、アートといったら『新宿』だよね、と言われるようになるくらいまでになれたらいいな、と思っています。
海外に比べると、日本はなかなか現代アートを育む下地がないともいわれていますが、新宿を訪れる人々が街中でアートをより身近に感じられるように、今後も取り組んでいきたいと思います。
歌舞伎町から始まり、新宿全域に広がる新潮流、まちの彩を確実に変えつつある「新宿クリエイターズ・フェスタ」の今後の動きにも大いに注目していこう。