新宿眼科画廊 たなかちえこさんインタビュー <後編>

2018.06.08

「新宿眼科画廊」の展示のユニークさ、前衛的な作品の多さは、インタビュー<前編>で伺ったように、展示する作家の思いを汲み取り、作家と一緒に考えようとするたなかさんの姿勢とともに、「作品を選ばない」というポリシーにもあるようだ。

アートが気づかせるもの

特に何か意図して、そういったものを選んで展示しているわけではないんですけど、逆に『選んでいない』というのが強いのかもしれませんね。展示作品を選ぶことによってその空間の色が作られているギャラリーとは真逆にあるとでもいうか(笑)

うちはジャンルを問わず、作家さんと一緒に出来るだけいろいろなことをしたいというのが念頭にあるので、そうしていくうちに、どこか尖っているというか、他ではやってないことをやっているね、と言われるような展示が多くなったのかな、と思います。

アニメーションやサブカルのようなジャンルに特化している作家さんも多いので、そうした展示をすることで好きな人が見にきて、その人が展示をしたいと思ってまた次に展示する。知らない場所でそうした輪ができて、連鎖的な感じで展示が増えていくので、私が介在するというよりも、そういう「見えざる力」みたいなものによって、なんとなくこのギャラリーの独特な雰囲気が作られているのかなとも思います。

他のギャラリーでは断られたという方も結構いらしたりするんですが、内容を伺うと、うちとして展示に特にデメリットを感じなかったり、もし問題が起きてもその場で対応すればいいかなというものが多いので、極力展示の内容に制限を持たない、というスタンスでいます。それも眼科画廊らしい印象に繋がっているのかもしれません。

例えば、以前開催したろくでなし子さんの展示(女性の性器をテーマにオブジェなどを展示)も、他のギャラリーで断られたようでした。
「絶対ここでやるべきだと思う」と紹介していただいた時は、作品を見て「おー!」って驚きはあったんですが、やるべき展示だなと思いました。拒否反応だけではない有意義な展示になるだろうと感じたんです。

作品自体はすごくかわいらしく、おもしろく、お客さんもたくさんいらしていただきました。展示前は、こういった作品を扱うことに心配もありましたけど、みなさん「展示をしてもらってとても楽しかった」とか、性の問題を悩んでいる女性の方などもたくさんいらっしゃって、「こういうテーマを明るく展示していることにすごく勇気をもらった」という声など、いい意見もとても多くいただきました。

こうした展示を行うことで、見たくて見にくるお客さんの意見と、逆に作品に興味がなく、制作に対しても疑問しかないという姿勢や視点という、互いに全く噛み合わない双方の見方が存在することも体感しましたが、それは驚きであり新鮮な体験でした

さまざまな展示を続け、立ち上げから10年以上歩み続けてきた今、ギャラリーはどのような未来を思い描いているのか伺ってみた。

歌舞伎町に新しい書店ができるなど、少しずつ新たなカルチャーが生まれてきている印象もあります。うちも海外のガイドブックに載せていただいているようで、特にここ1年くらいは欧米の旅行者の方がすごく増えていて、旅行中にギャラリーに寄ってくださいます。サブカルなものや日本独特のカルチャーというような展示も多いし、グッズをこれだけの量取り扱っているギャラリーもあまり多くないので、お土産を買って帰ってくださったり、何枚もフライヤーを持って帰られたり、みなさん「眼科画廊」ならではの空間を楽しまれています。

海外の作家さんの展示はあまり今までしてこなかったんですが、今後は海外の方を招いて展示をしたり、日本の作家さんと一緒に展示をしたりするなどの取り組みもしていけたらと思っています。

新宿の街について

新宿の雑多なカルチャーが好きなので、この融合した街から今後も何か発信していけたらいいですね。新宿の雑多さには、例えばドロドロした部分、人間の欲望のようなイメージもあると思うけれど、それも嫌いになれない。一方で綺麗なものも一概に綺麗なだけでなく、視点によっていろいろな感情が生まれると思うんです。

ろくでなし子さんの作品もそうでしたけど、展示に対していい意見ばかりじゃなくてもいいと思うんです。展示を見て、いろいろな人がいろいろなことを思ったり、考えたり、話したりできる、そんな作品や展示が提供できたらと思っています。ただ作品を並べているだけではなくて、何かそこから生まれて欲しいと思います。

ごちゃごちゃは人間らしさ

オリンピックに向けて渋谷など大きく変わりつつあると思うんですけど、新宿って特に歌舞伎町周辺など東のエリアはゴチャゴチャしている。特に小さな店がギュっと集まっているゴールデン街には人間らしさのようなものを感じるんです。酔っぱらってほんとにどうしようもない人たちがくだらない話をずっとしたりしている、そうした光景がすごく愛おしいというか、あまりきれいになってしまうと、見えない部分がどんどん増えていくように思います。

例えば昼間はみんなが外行きというか、ちゃんとしなきゃいけない、仕事にいかなきゃいけないというように鎧を着けて生活している中で、この街にはそれを脱いだ状態でいられる場所もあるのかな、と思うんです。そういったところは変わることなく、街がより良くなっていったらいいなと思います。

追記
話を聞き終え、最後に名前の由来になった「新橋内科画廊」について伺うと、「1960年代前半に、当時インターンだった息子さんが、亡くなられた父親の病院を継ぐまでのわずか2年間のみ、その病院で運営されていた画廊なんです。
個人的にも美術史の中で影響を受けた時代。いわゆる前衛と呼ばれていた作家さんが展示をしていたそうですが、ほかのギャラリーで断られ、展示する場所がなくて「内科画廊」に流れ着いたとか、みんなが毎日集まって話すようなサロン的な場所になっていたなどと伝えられています。ほとんど記録がなくて、実際に運営していたのが誰なのか、美術雑誌に広告も出しているんですけど、そういったことを誰がしていたのかわからないことがたくさんあるんです。でもそういう不思議さ、わからないことっておもしろいと思うので、『眼科画廊』もそんな伝説の画廊にあやかって運営できたらいいなという思いもあって。実はここも病院に併設されていると思われて眼科はどこにあるの? 眼科を受診したいのだけど、と聞かれることがよくあります」とたなかさんは笑いながら話してくれた。

新宿眼科画廊
東京都新宿区新宿5-18-11
展覧会開催時間 12時〜20時(水曜日〜17時) 木曜日休廊

 関連リンク 
「新宿眼科画廊」 https://www.gankagarou.com

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