新宿眼科画廊 たなかちえこさんインタビュー <前編>

2018.06.07

新宿ゴールデン街に程近い場所で、「他ではなかなか見られない個性的な展示が見られる」と評判のギャラリーがある。その名は「新宿眼科画廊」。一度耳にしたらなかなか忘れがたいユニークな名前は、かつて新橋にあり、今ではしばしば伝説とも語られる「内科画廊」へのオマージュとして名付けられたそうだ。

「眼科画廊」は、現代美術を中心に、写真やインスタレーション、映像作品などを展示するスペースとして2004年12月にオープンした。通りから光が差し込む一番大きなスペースを筆頭に、4つの異なるギャラリースペースと、展示だけでなく演劇なども多く行われる地下フロアを展開しているが、当初は一階の一番奥まったスペースただ一つから始まったという。

最初はギャラリーを考えてはいなかった

立ち上げメンバーで、現在ギャラリーの広報を担当するたなかちえこさんは、当時をこう振り返った。

元々学生時代は絵を描いていて、友人と一緒にギャラリーを借りて展示をしていたんです。何度か展示をするうちに、展示内容や場所のセレクト、告知方法など考える役目をなぜかいつも私がやることになって(笑) そうしていく中で、とりまとめる人が少ないなというのを感じ、自分がその立場を率先してやっていこう、専門にしていこうと考えるようになりました。その後、自分たちが集まって何か表現できる場所を持ったらいいんじゃないかと思っていた時に紹介されたのが、一番奥の部屋だったんです。最初は『ギャラリー』ということも考えてなかったんですが、ギャラリーだったら毎日開いてなくてもいいし、自分たちができるペースでやってみようかな、と。

それでも、「新宿」という場所には思い入れがあったそうだ。

いろいろ考えた中で、寺山修司さんや唐十郎さんといった演劇の方だったり、ゴールデン街に写真家の方たちが集っていたり、絵画ジャンルだったりと、雑多な文化が融合している新宿は特徴的な場所だと感じていました。そうしたいろいろなカルチャーの人たちが集まっている中から生まれる力というのが何かあるんじゃないか、この場所で何かできたら、と思いました。こういったカルチャーは、一旦しばらく途絶えていたように思うんですけど、このギャラリーやゴールデン街、歌舞伎町からまた何か新しいカルチャーが始まったらいいなという気持ちは今も持ち続けています。

身内の展示から始まった「ギャラリーっぽい場所」は、ただ「展示する場」としてだけでなく、皆が集まってくるサロン的な機能も果たしていたという。

いろいろな人が来て情報交換したり、そこから輪が広がったり、最初から普通のギャラリーとはちょっと違う雰囲気でしたね。 ここで出会った人たちが仲良くなって一緒に展示をしたり、違うユニットが生まれたり。演劇の人と絵の展示の人が知り合って、その後、別の演劇でコラボ上演するといった新たな交流がたくさん生まれました。

徐々に展示したいというアーティストも増え、より「ギャラリー」らしさを増しながら3年が過ぎた頃、違うテナントが入っていた手前のスペースも空くことになり、ここで腹をくくってギャラリーとしてやっていこう。と、決心したという。

路面にも面し、広くなったと同時に一挙に認知度が高まって、展示する内容の幅も広がったと思います。絶対これで成功させるぞという感じではなかったですけど、チャンスがあるんだからやってみようという感じでここまで続いてきた感じですね。

いつのまにか憧れの作家から依頼が

どうしてもギャラリーをやりたかったという意図から始まっていないが故に、驚きや楽しみも多かったという。

ギャラリーが大きくなるにつれて、自分の礎というか人格形成に関ってきたような作家さんが展示してくださったり、対等な関係で一緒に仕事をする機会ができたりして、それはおもしろいな、と思ったし喜びでもありました。

高校生の頃、それまで見たことがないような内容のアニメーション作品で、かなり衝撃を受けた今敏(こんさとし)さんという監督がいらっしゃるんですけど、ギャラリーが広くなってすぐのタイミングで、今監督からここで展示をしたい(しかも初個展)というお話を頂いた時は、とても驚きました。大ファンでしたが、好きという気持ちを持ったままだと対等に仕事ができないので、それは忘れて仕事をしつつも、終わった後は「はぁ、何だったんだろう」って夢見心地のような不思議な気持ちでいっぱいでした(笑) 幸運なスタートでした。

作り手だったからこそ作家の思いを汲み取ることを

「眼科画廊」らしい展示はどのように生まれているのだろうか?制作でもあったたなかさんはこう話す。

ギャラリーの経営者は、制作経験を持たず最初から主体で運営されている方と、元々作り手だった方が運営されている場合と2パターンあると思うんです。私は作る側だったので、例えば展示の方向性が企画段階で変わってしまったり、一人では抱えきれなくなって行き詰まってしまったり、何でここでこうしたんだろうといった、ちょっとネガティブな状況も含めて作家の気持ちがわかるので、極力相手が何を考えているのかを『汲み取ろう』と思っています。

物作りに携わっている方は、本当に人それぞれ全然違う考え方で、全く違う発想のもとにさまざまな意見を主張されるので、頭ごなしにそれが駄目とか良いと判断せず、なぜその人がそう考えそう思うのか、じゃあどうしたらいいのかということをできるだけその人の立場に立って、一緒に考えようと思っています。汲み取る難しさは確かにあるけれど、いろいろ話を聞くと『こういうふうに思ったからそう考えたんだ』と思えることがそれなりに多いし、一緒に何かを生み出していきやすくなると思うので、その辺は柔軟に対応できたらと思っています。

インタビュー#2へ続く

新宿眼科画廊
東京都新宿区新宿5-18-11
展覧会開催時間 12時〜20時(水曜日〜17時) 木曜日休廊

 関連リンク 
「新宿眼科画廊」 https://www.gankagarou.com

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