ここ数年、「ドローン」に関連するニュース映像、映画やミュージックビデオ、SNSなどで発信される空撮による絶景や美しい映像を目にする機会が圧倒的に増えてきたのではないだろうか。さまざまな使われ方が期待されているドローンだが、その市場において世界No.1シェアを誇るのは2006年、中国広東省・深圳に創業したドローンメーカー「DJI」(Da-Jiang Innovations Science and Technology Co.,Ltd)である。フランスやアメリカのメーカーを抜いてドローン開発・販売の実にシェア7割を占める。
新宿御苑にほど近い新宿通り沿い社を構え、そんな「DJI」のドローン製品を扱うオンラインショップ「Y.D.S Pro Shop」を手掛ける有限会社Y.D.S社長の八島伸行さんに今回、ドローンの面白さと未来について伺った。撮影・映像のプロフェッショナルとして映像制作に携わってきた八島さんは、カメラ機材のレンタルのほか、早くからドローンの可能性に目を付けていた。
八島さんがドローンに出会ったのはどんなきっかけでしたか?
中学・高校はバンドをやっていてミュージシャンになりたいと思っていました。就職したのは映像の制作会社で、平日は報道や企業の映像を撮ったり土日は結婚式を撮ったり、当時最先端の機材をそろえた編集室もあって、多岐にわたるジャンルを手掛けていました。ドローンとの最初の出会いは24歳で独立した頃、2012年あたりだったと思います。インターネットか何かで「Phantom(ファントム)1」が目に留まったんですね。
まだ広く一般にドローンが知られる前ですね。
はい、日本ではまだドローンが全然市場に出てきていなかったと思います。子どもの頃から自動車のラジコンなど機械は好きでしたが、それまで空を飛ぶラジコンの代表でもあるヘリコプターや飛行機は難しくてハードルが高そうだし、手を出すには勇気がいる感じだったと思うのですが、ドローンはどうやら簡単に飛ばせるらしいと知ったのです。もちろん空撮にも憧れがあって、知り合いが「東京都内をヘリで飛んだ」と聞くと映像素材を見せてもらったりしましたけれど、そうした空撮も自分でできるのではないかということで、すごく期待しましたね。
日本で最初にDJI製ドローンを輸入して扱っていたのは「セキド」という店(オンラインショップ)で多分そこで買ったのだったと思います。「ついに(手元に)来ちゃった!」と喜びいっぱいで電源を入れてみるけれど動かない。最初は何もかもわからなくて、いろいろ調べたり聞いたりしてようやくプロペラが動いて浮くんですが、まぁよく落としましたね(笑)。部屋の中で飛ばしてみては壁にぶつけたり、サイズも大きめなのでものすごい威圧感があって怖かったりした覚えがあります。それでも未知の機械に対するワクワク感しかなかったです。
出会いから4年後の2016年に立ち上げられた認定ストアは、国内1号店でした。
まだカメラも付いていない「Phantom1」からスタートして、その後いよいよ空撮のためのプロ映像製作用機体「Inspire(インスパイア)1」が発売になりました。360°回転式ジンバル(=カメラを安定させて水平に保って撮影する)と4Kカメラを搭載していて、カメラも交換できるしレンズも必要になってくる。さらに「Phantom
3」が発売になるなど、自分が興味ある商品が世の中に次々と登場するわけです。もう絶対手に入れますよね。
そんな折、「DJI」のホームページを見ていたら代理店を募集していたので名乗りを上げ、周囲にも希望の機種などを募ってまとめて発注しているうちに、中国の本社から「日本に実店舗が欲しい。お客さんが実際に来て見られるような店舗を持った代理店が欲しい」とオファーがあったのです。
当時、撮影や編集、CG制作をしたり機材のレンタルをしたりしていた会社の下のフロアが空いたので、借りてドローンを飛ばすなどしていました。出店には迷いがありましたが「日本で1号店」になるのであればやろうと決断しました。
実店舗での手応えはいかがでしたか?
最初はすでにドローンを持っている人や機械が好きな人ばかりでしたが、いろいろなドローンが販売されるにつれ一般の方の来店も増えました。ドローンの種類によって飛行音、離発着やホバリングの様子なども違うので、実際に飛ばしたり触ったり体験してもらうなど、お客さまも店員の顔を見ながら安心して購入していただけたのではと思います。使い方がわからなくて問い合わせいただくことも多く、皆さん、買ったものを飛ばしたくてたまらないので喜んでくださいます。そうやって頼ってもらえたというのはうれしかったですね。
ドローンだけでなく、ドローンから派生した関連商品も注目を集めています。
ドローンと合わせて主流になっているのがジンバル(水平を保つスタビライザー)で、「RONIN-S(ローニン エス)」は一眼レフ、ミラーレスカメラ用に設計された片手ジンバルです。アマチュアなど一般の方も使っていて人気の商品です。ジンバルに小さいカメラをつけたわずか116gの「Osmo Pocket(オズモポケット)」は、手軽に動画撮影をしたり誰かとシェアしたりできます。こうした機動性の高い地上撮影向けの機材は人気があります。
DJIは教育にも力を入れていて、「ROBOMASTER S1」という教育用のロボットもあります。参加チームそれぞれが開発したロボットが、フラッグ取りや陣取り合戦など競い合うロボットの大会「DJI RoboMaster」から誕生した製品で、完成品ではなくバラバラに入っているパーツを自分で組み立てて、プログラミングで動かすことができるロボットです。学ぶだけでなく複数で対戦してサバイバルゲームのような形で遊ぶなど、アミューズメントとしての可能性も持ち合わせています。
2020年、DJIの知名度を一層高めた認定ストアはその役割を果たしオンラインへと場を移しました。今後のドローン市場の展開について、どのように考えていらっしゃいますか?
ドローンはどんどん小型に、そして低価格になってきています。僕が始めた頃、スタンダードなタイプは一番安いものでも10万円以下はありませんでしたが、現在は1万5千円くらいからあります。200gにも満たない「Mavic
Mini(マビックミニ)」といった、ポータブルサイズながら手軽にクリエイティブな撮影できるドローンが次々に登場してきました。
個人が飛ばす場所は限られていて難しくなってきていますが、市場が拡大する中でこうした機材や、ドローンを使った技術は業務用・産業用としてますます需要が高まっていくと感じます。
僕自身、空撮など映像撮影での需要はもちろんですが、ドローンを世の中の役に立てたいという思いが強くあります。例えば最近では、キャンプ場で行方不明者の捜索にドローンを投入したのが1週間後だったといったニュースも耳にしました。よほど支援に向かおうかと思いましたが、ドローンにはそうした現場でもっと活かせる実力、可能性があると思っているので、力を入れていきたいですね。
「人命救助コンテスト」のようなドローン大会もあります。3日間くらいに渡って行われるもので、真っ暗な中で遭難している人を一番先に発見したり、遭難者のそばに救援物資を持って行ったりするなどポイントをクリアしたチームに賞金が出ます。まだまだレース構成は容易だと感じますが、我々のチームは技術も含め機材も熟知していましたし、2年前に参加した時には賞金王になりました。
ほかには、例えば測量や点検などの分野では人が歩いて確認していたところ、もしくは人がなかなか入れないところにドローンを飛ばして作業することができます。高圧線など高所作業に関わる職人の高齢化問題の解決の一手ともなり得ます。映像制作を劇的に変える手法でもありますが、ドローンに「360度カメラ」(全方位を動画撮影できるカメラ)を乗せて飛ばせば、一回飛ばしただけで全方位を動画撮影できるので後からさまざまに編集することが可能ですが、このドローンを煙突の中、下から上まで飛ばせばどこが傷んでいるかがわかります。ハシゴを使った作業員の方の事故も聞くので、技術を応用していくことでそうした危険性が無くなっていけばという思いが強くあります。
マルチスペクトラルカメラといった畑の生育状況がわかる高性能カメラとドローンの機動性を合わせることで、海外で使われているような農薬散布以外に農業分野で応用できる技術も増えていくかもしれません。今後、技術を活用し、社会に役立つこうした可能性を追求していけたらと思います。
関連リンク
「Y.D.S. Pro Shop」
https://ydsnet.shop-pro.jp