WRECKING CREW ORCHESTRA リーダー YOKOI氏
インタビュー #2

2017.10.18

前回に引き続き、映像作品「PAST & FUTURE」でプロデュースを手掛け、またダンスパフォーマーとして出演するYOKOI氏に、そもそもダンスと出会った原点を振り返りつつ、世界的にリスペクトされる日本人ダンサーを取り巻くダンスシーンの、過去と未来にオーバーラップする映像に込められた思いを聞いてみた。

始まりは、なんだこれ!?

ダンスに出会ったのはいつ頃だったのですか? 何かきっかけが?

最初の出会いはマイケル・ジャクソンの「スリラー」の映像です。小学校2年生の時、まさに習い事の帰りかなんかに、街の電気屋さんの店頭にあったテレビで流れているのを見たんですよ(笑)

あの映像って「怖い」じゃないですか。でも踊っているし、怖いという思いと同時に「なんだこれ!」っていう興味とで釘付けになりました。それまではダンスってもの自体がなんなのか、あることすら知らなかったです。

その後ブレークダンスブームがきて、風見慎吾さんの「涙のtake a chance」が流行った時には、学校の友達同士でその振りを覚えて見せたりして、みんなにすごく好評でした。そして、「ブレークダンス」という映画を見つけてまた衝撃を受けました。そこで当時出ていたダンスの本を借りて一生懸命練習しているうちに、どんどんはまっていきましたね。

でも、当時本気でやっていたのは実はバスケットなんですよ。「絶対、日本初のNBA選手になる!」って自分で言っていました。でも、高校時代に怪我をして続けられなくなってしまって、もうどうしようかと思っていた時に目にしたのが、Zooの「choo choo TRAIN」なんですね。

そのものすごく楽しそうな映像を見て、「ダンスやったら、こんなに楽しい思いができるのか」って思って。中学時代にはダンス甲子園ブームもありましたし、趣味として踊ることはずっと好きでしたけど、真剣に始めたのは17歳からです。「ダンスで食って行く」って決めたのもその頃です。「ダンスで食べるって一体どうやって?」っていう時代でしたけど、まだ。でも自分では決めてしまった。

その後「WCO」を立ち上げられて、活動を続ける中で「EL SQUAD」が生まれ、またダンスシーンでは唯一無二の「舞台作品」をたくさん手掛けて来られました。そういう中で今回、この「廃虚」でのパフォーマンスはいかがでしたか?

「EL SQUAD」の踊りというのは、電飾を身体にまとっていますし、基本的に真っ暗にしてもらわないとそもそも電飾がよく見えなくなるし、電飾を取回しているコードが丸見えにならないように、というパフォーマンスですが、今回、上田君から「背景も一緒に写したいんだ」という話があって、「え、できるの?」って。でも、それは今まであえて考えてこなかったこと、やったことがなかったことだったので、かえってそれがうまくできたら面白いなと思いました。

僕らもできることなら、背景などが見える中であの電飾パフォーマンスが効果的にできれば、より違和感が生まれるのでは? というか・・・現実の場所に急にあの非日常的な存在が現れるように見えるので、とてもいい感じのズレが不思議な感じがしていいと思いました。

どうしてもELのパフォーマンスって、特に映像で見ると、もともとCGなんじゃないか、編集でやっているんじゃないか、と見られやすいんです。そこがいいところでもあるのですが、ロボットでも合成とかCGとかの撮影や編集技術で創っているわけでもなく、生の人間が創っているパフォーマンスだという面白さや、狙っている違和感が伝わりずらいという、難しさもあるんです。この「自力で踊って表現している」という部分は、背景が見える形であるとよりリアルに伝わるはずでありながら、やってこなかったことでもあったので、今回の映像は新たないい挑戦になりましたね。

最新型のパフォーマンスの肝は「生」

上田監督も「EL SQUAD」の「より生の迫力を大事にしたい」とおっしゃっていました。踊り自体はシンプルなもの、ということでしたがいかがでしたか?

「EL SQUAD」は他にも、忍者や着物をモチーフにしたもの、虫みたいなものなどいろいろな衣装があるんです。しかし「新宿 TOKYU MILANO」という一つの建物に対してコンセプトを作って踊る、という経験は今までなかったことなので、何か新しいチャレンジだったり、もっと別のイメージを作ったりすることもできました。でも上田君ともよく話し合って、一番皆さんが見たことがあるだろうあのベーシックな電飾スーツを使うことが、一番わかりやすくコンセプトを伝えられると思ったんです。

そこからスーツに合わせて、一番わかりやすい音楽、一番わかりやすい踊りというように、自分たちが持っているものをミックスしていきました。

「EL SQUAD」として一番見て欲しい部分というのはどんなところですか?

「光るダンス」はもともと舞台の一作品として生まれたものなので、今ではいろいろな形のスーツがあるけれど、どれも全部ダンサーたちが手作りで作っています。「最新テクノロジー」と言われることも多いのですが、実際にやっているのはすごくアナログな手作り作業なんですよね。


YouTubeで爆発的に世界に知ってもらえて、僕らも海外で披露する機会が増えたし、それこそ世界中に「光るダンス」のコピーチームも出来るほどになりました。システム担当とかスーツ担当とか専門チームがついているところもあって、ものすごいクオリティの作品もあります。

自分たちのダンスを表現する上で、そうした思いを実現させるために産まれた「光るパフォーマンス」は、今回の「PAST & FUTURE」映像作品のコンセプトともすごくマッチしたと思います。だからこそ小細工することなく、自分たちがあのスーツを使った光るパフォーマンスで、その思いをどう伝えられるか、でも僕たちの良さというのは、上田君が「生のライブ感」と言ってくれているように、僕らがもともとストリートダンサーとしてやってきている部分が大きくて、これらはただ単にテクノロジーを追いかけただけのもではなく、音楽やコンセプトをどう表現し伝えていくかということに尽きます。

「El SQUAD」の光るパフォーマンス自体は、表現の一つでしかありません。言ってみれば自分たちの「拡張表現」です。僕たちが「ああしたい、こうしたい」っていう思い、例えば「人が急に消えて別の場所から現れたらおもしろいよな」とか「急に浮いたりしたらすごいよね」、じゃあ、それはどうやったら具現化できるんだろう、といういくつもの「できたらいいな」、そうした思いがELワイヤーという材料とめぐり会ったことで「暗闇の舞台で使ったら瞬間移動したように見えるんじゃないか、浮いているようにみえるんじゃないか」という発想の具現化につながるわけです。
そこが一番大切だったと思いますし、一番見てもらえたらと思うところです。

光を追いかけることは闇を意識すること?

「WCO」「EL SQUAD」の「PAST & FUTURE」、その未来に今YOKOIさんが見る光とはどんなものでしょうか?

学校でダンスを教えるようになったり、ダンス自体の認知度が広がってダンスをする人の裾野は間違いなく広がったと思います。でも、ダンスのショーに来られるお客様は、まだまだプロとセミプロのサークルの中の人たちがほとんど。一般の方がダンスのことを、ダンサーのことを、スポーツやスポーツをするアスリートのように、音楽や、音楽を提供するミュージックアーティストのように、またドラマや演劇を演じる俳優のように知っているか、というとそういうことにはなっていない。ダンスを一つのエンターテインメントとして捉え、一般のお客様が足を運ぶことが普通になったかというと、やっぱりそこまでにはまだなっていない、という思いが続いています。
まだまだ活動土壌が少ないし、生きて行く為にどんなトップダンサーもスタジオで教えている。スタジオっていうビジネスシーンでは、ダンスの実力よりどれだけ生徒が入っているかの方に価値がある。だからミュージックアーティストやほかの職業のような、トッププレイヤーがトップたる明確な位置づけというものがまだダンスシーンにはないんですね。

初めはちゃんと前に立って、パフォーマーとして認知されたいと思って腕を磨きました。次に、ダンスをより社会化されているものに近づけたいという思いで、舞台にしてみたり、その舞台の中で物語を創ってみたりしてきました。しかし、まだまだですね。今後、僕が本当に思うダンサーの地位というものを確立していく力の一つになれたらとは思っています。

世界的に見ても日本人のダンサーってトップクラスの実力なんですよ。アメリカで生まれたストリートダンスが、日本で生まれた「DANCE DELIGHT」というダンスコンテストにより、日本を経てアジア・ヨーロッパへと波及した時、「進化させたのは日本なんだ、ヨーロッパでは日本人ダンサーの影響がすごく強いよ」とも言ってもらうほど、日本人ダンサーはヨーロッパでリスペクトされている。ショーを作っても精巧だし、踊りも揃っている。日本人の良いところが凄く出ていて、エンターテインメントとしてもレベルが高いものにできるんです。だからこそ皆さんにダンスをもっと見て、知ってもらいたい。

世界で実力を認めていただいている日本のダンサーをもっと広く知って欲しいと思っていますし、日本人だからこそ産み出せるダンスの可能性があるとも思います。

おかげ様で今僕は演出家や振り付け師として僕一人がやっていこうと思えばたぶんやれる。でも、それが目標ではないんです。まだダンサー全体の立場の確立は実現できていない。僕はその土壌をちゃんと作れたらと思っています。

いろいろなところで広がっているダンスを、みんなつなげる人が必要なのかもしれないし、そうやって全部が底上げしていけるような取り組みができたら、もっと広がるかもしれない。

ダンスで実力あるすばらしい人たちがちゃんと生きていける世界を作って行きたいと思います。

僕自身、やっぱりモノづくりがすごく好きなので、いろいろなものをこれからも創って行きたいと思っています。大きい舞台も小規模な公演も、いろいろな形やパターンで、いろいろな人に見てもらえるように。結局結成した時と同じ、ダンスの可能性ってものを、常に人に伝えて行きたいというのは何もかわらないままですね。

新宿の「広さ感」の未来とは?

新宿の未来に期待するとしたらどんなイメージですか? また、どんなことをしてみたいですか?

新宿は、僕にとっては19歳の時に「東京のダンスを見たい」と思って一週間くらい滞在していた時に来たのが初めての関わりです。「この街のこの広さはなんだ! 何本電車通ってんだ?」っていう、強烈な「広さ感」が印象的でしたね。人の数も人種もとにかく多く広いですよね。その後「WCO」として、新宿「シアターアップル」で東京公演をやったこともあります。

歌舞伎町って、もうその名前がすごく素敵ですよね。まさに名前の通り「かぶきもの」たちに温かい街であって欲しいですよね。

そんな「かぶきもの」たちが集まって一堂に作品なりを見せられるような場所が歌舞伎町にあったら最高ですよね。

そこに行けば、最先端のクリエイターやアーティストが発信しているものが見られるって、そんな場所ができるといいな、って新宿に期待しますね。クリエイターはつながればつながるだけ、そこに新たなアイディアが生まれますから。この新宿にみんなをつないで欲しいし、新宿でつながれるつながり方が産まれたらおもしろいな、と思いますね。

光るパフォーマンスを生み出した僕らもまだまだ進化していけないといけない。今回廃虚を背景にして踊るという経験は、僕らの世界観や表現を広げてくれる要因にもなったと思うし、刺激的な経験になりました。最初に一番シンプルなものを映像作品として見ていただいたので、壊されまた新しく生まれ変わっていく未来と、僕たちの新しいパフォーマンス、次にはその2つの進化が合わさったようなものができたらいいなと思います。ぜひ続きがまた作れたらいいですね。

【YOKOI氏 プロフィール】

WRECKING CREW ORCHESTRAのリーダーであり、メンバーやゲストが「座長」と慕う天才的な才能を持ったダンサー。10代の頃から群を抜く身体能力と自在に音楽を体現するハイセンスなアプローチで、ダンスコンテストにチャレンジし、数えきれない優勝を獲得。常に一歩先を走るダンサーとして日本だけにとどまらず世界中にその名を知らしめ、現在のヒップホップスタイルのスタンダードを確立する。

 関連リンク 
「WRECKING CREW ORCHESTRA」 http://wreckingcreworchestra.com/

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
歌舞伎町文化新聞編集部の略称アイコンです。

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