WRECKING CREW ORCHESTRA リーダー YOKOI氏
インタビュー #1

2017.10.17

1956(昭和31)年に開業した「新宿東急文化会館」、後の「新宿TOKYU MILANO」は映画館やスケートリンク、飲食店、ボウリング場などを有した一大複合施設として2014年まで、58年という長きに渡り親しまれてきた。 2015年末に始まったこのビルの解体のさなかに、その建物の中で、脈々と続いて来た歴史と文化の痕跡をとどめておこうと作られ、本サイト内で公開された映像「PAST & FUTURE」を巡るSPECIALインタビューでは、先に映像を監督した上田大樹氏にお話を伺った。 続く「SPECIAL1」連載3回目の今回のインタビューでは、その上田監督に「ぜひ一緒に作ろう」と声をかけた日本のトップダンスパフォーマーにして、日本の超一流ダンスパフォーマーたちで構成されるダンスパフォーミングアーティスト集団「WRECKING CREW ORCHESTRA」(以下「WCO」)のリーダーを務めるYOKOI氏にご登場頂いた。
「WCO」とそこから生まれた‘光るダンス集団’「EL SQUAD」については「新かぶき者クリエーターズ」でたっぷりと語っていただいたので、ぜひそちらを読んでいただきたい。
本サイト公開映像作品の制作プロデユーサーであり、パフォーマーであるYOKOI氏が、壊れ行く廃虚に見たものとは? そしてその先に見える未来への期待とは? 世界的にも注目を集めるダンスパフォーミングアーティスト集団のコンセプトともオーバーラップするという、「PAST & FUTURE」について聞いてみた。

「破壊」と「再生」を踊る

「解体するビルを舞台に映像を作りたい」という話を最初に聞いて、いかがでしたか?

(YOKOI)「WCO」「EL SQUAD」は大阪を拠点に活動していて、僕自身は「新宿 TOKYU MILANO」というビルには行ったことがなかったんですが、これが壊されるお話を伺い、目の前で解体されていく様子を直接見ることになり、すごくインスピレーションを受けました。

実際に廃虚の中に立たれて、どんなことを感じられましたか?

(YOKOI)僕たち「WCO」チームのコンセプトは「破壊と再生」なんですね。まさに名前に「wrecking=壊す」という言葉も入っているくらいで、既存のもの、自分たちが作ってきたものでさえ壊して、常に新しいものを作っていく、そういう感覚をずっと持ってやってきたので、壊されていくビルを見た時に「まさしく自分たちの感じと合う」と思いました。

今まで歴史のあった場所を取り壊して、そこにきっとまた何か新しいものが創られる、そこで何かを表現するというのはとてもおもしろい、と。

それに単純にかっこよかったんですよ、僕が見に行ったときにはもうかなりボロボロの状態だったんですけど。かつてボウリング場だった場所が廃墟化しつつあったり、あちこちいろいろな線がむき出しになっていたり。壊されつつあるものを見ることってあんまりないですよね。「廃虚」って男心をくすぐるというか。この中で僕たちが踊ったり、「光るダンス」が出てきたりするっていうのはめちゃくちゃかっこいいんじゃないか、と思ったのが最初のイメージでした。

まさにYOKOIさんのコンセプトが体現できるような場所だったんですね。そこで、映像監督として上田正樹監督に声をかけられましたね。

もともと「プルートゥ」という舞台(原作:浦沢直樹×手塚治虫、長崎尚志プロデュース、主演:森山未來他)を見た時に、映像と美術を手掛けたのが上田君だと聞き、近しい方を通して「ぜひ紹介してもらいたい」とお会いしたのが最初です。すごくおもしろい舞台だったし、その映像作家と美術家は素敵な感性を持っている方だなという印象でしたので。


その後、宮本亜門さんと僕が一緒に演出した「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」という舞台で、どうしても一緒にやりたいと思って仕事をしてからのお付き合いです。今回も映像を作るという話になった時に「これはもう上田君だ!」と思ったんです。

廃墟の中から見える光とは?

上田監督のその魅力とは?

上田君には僕たちにはないアイディアがありますし、具体的な形や装飾をあれこれ出していくというよりは、抽象的なものから何かイメージを生み出すのがすごくうまいと思います。いろいろな側面を持っているというか、いい意味でマルチだなと感じる部分も多いですね。

単純に話も合うし、いろいろ話を聞いてちゃんとやりたいことを理解し、体現してくれる方なので、今回もぜひ彼と一緒にやりたいと思って。

コンセプトについて、上田監督とはどのような話し合いをされたのですか?

お互いに今回の映像に関しては、あの場所を使ってたくさんの人たちに「過去」の歴史とその先にある「未来」の意味を伝える、という部分を大事にしました。

単純にそこで自分たちが踊っただけでは伝わりにくい部分を、しっかりと「PAST & FUTURE」というコンセプトに沿って、わかりやすくストーリーに仕上げてくれたと思います。

最初はこういう映像を「シリーズで作っていけたらいいよね」という話もあったんです。だからその第一弾として、廃虚の中から「次の光が見えてくる瞬間」みたいなものを伝えられたらいいなと思って。「PAST & FUTURE」というコンセプトは、そんな思いからも出てきたという感じです。

実際に撮影が始まって、現場はいかがでしたか?

下見の時に比べるとちょっと変わった、というようなことは一応話には聞いていたけれど、撮影の時にはだいぶ解体が進んでいて、ほんとにかなりなくなっていましたね(笑)

始めは解体されてむき出しになったコードに巻き付いて踊ることで、壊れた機械をダンサーが具現化するとか、いろいろイメージしていたものもあったのですが。イメージしていたその辺は全部なくなってしまったので、少し残念な部分もありましたが、それでもできることというか、少し考えなおした部分も含め、最終的には上田君がかっこいい映像にまとめてくれました。

プロデューサーとしてではなく、パフォーマーとしてダンスはどうイメージされましたか?

僕のダンスに関しては基本的にいつも即興です。あの時、あの空間で感じたもので何テイクか踊らせていただきました。ソロでダンスを踊るという時は、イメージを先に決めることはあまりありません。やっぱりその時々の感情で動きます。

音楽は事前に作られたんですよね。

そうなんです。表現が即興のダンスにとって「音楽」は実はとても重要で、事前に音楽を作る時には逆に何度も音楽作家とやりとりをしました。今回音楽を作ってくれた小林(岳五郎)さんには最初のイメージとかコンセプトをしっかり伝えて、そのイメージに合う音楽を作って頂きました。僕は、出来上がった音楽と廃虚の雰囲気、コンセプト、それらすべてを自分の中で融合させて「その瞬間で踊る」といった感じですね。

具体的にはどのように小林さんにイメージを伝えられたんですか?

後半にパフォーマンスしている「EL SQUAD」って基本的にみなさんがご存じでイメージされるのは、エレクトロで激しいエッジが効いた音だと思うんですけど、今回は廃虚の中なので、どこか物悲しい感じも入れて欲しいと伝えました。と、同時に、未来に向かっていくような音が欲しい、それをピアノの音でまとめていただけないか、と伝えました。

この両方をどううまく混在させるか。激しいエッジの効いた音とピアノの素敵なメロディーを一緒の曲の中で融合させ、展開するというのは、実際はなかなか難しい作業だったと思いますが、この作品では小林さんに特にその辺りをこだわって伝えた部分です。

ソロのダンスパートも、ピアノが激しくなるところだったんですが、僕の表現は一貫して同じイメージでした。壊れていくはかない部分、そして次へ向かうための活力、その両方が渦巻いている感じこそを表現したいという、これも全体的な軸のコンセプトというか・・・強調したいと。無くなるものをただ懐かしむ気持ちだけでなく、そこに何か新しい光を見つけて次へ向かって行く気持ち、そこを音楽でもダンスでも表現できればと思いました。

そこで働き、人知を超える?

登場シーンで上田監督は、YOKOIさん演ずる男性を「どの時代にもいるような人を重ねて・・・」と話されていましたが・・・

そうですね。「EL SQUAD」は「人ではない形、不思議な存在」なので、「僕」を、どのように位置づけようかというのはまず上田君と考えたところでした。

そこで、最初に出てくる僕は、人知を超えたというか世代や時代を超えた存在としてあり、またいつの世にもいる人の姿の象徴としてもいる、と。そして後半踊っている「EL SQUAD」と、その僕の存在はあの映像の中で実は同じ存在、「同一」のメタファーでもあるんですよ。

つまり、いろんな世界というものを一歩外から見ている男が、「新宿 TOKYU MILANO」というビルの歴史を振り返りながらも先に向かっている。そしてそこにあった現場で戦ってきた人間たちが次に向かっていく姿をまた見ているという。男はかつてあの場所にいて戦っていた人たちの気持ちを、何か形にしたような存在でありつつ、でもちょっと外からみているような存在でもある、そういう両者を見せたかったんですね。

ビルの屋根から街を眺めているのは、そんな人知を超えた存在でありながら、そこで働いた人たちの目線でもあるのです。

【YOKOI氏 プロフィール】

WRECKING CREW ORCHESTRAのリーダーであり、メンバーやゲストが「座長」と慕う天才的な才能を持ったダンサー。10代の頃から群を抜く身体能力と自在に音楽を体現するハイセンスなアプローチで、ダンスコンテストにチャレンジし、数えきれない優勝を獲得。常に一歩先を走るダンサーとして日本だけにとどまらず世界中にその名を知らしめ、現在のヒップホップスタイルのスタンダードを確立する。

 関連リンク 
「WRECKING CREW ORCHESTRA」 http://wreckingcreworchestra.com/

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
歌舞伎町文化新聞編集部の略称アイコンです。

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