2015年末に解体が始まった「新宿TOKYU MILANO」を舞台に、日本発・世界的に活躍するダンス・パフォーミング・アーティスト集団「WRECKING CREW ORCHESTRA(レッキンクルーオーケストラ、以下WCO)」のリーダーYOKOIと、WCOから誕生した‘光るダンス集団’「EL SQUAD(イーエルスクワッド)」の出演による3分54秒の映像作品が密かに制作されていたことは前回のインタビューですでに明らかにした。
制作監督の任を担った映像監督上田大樹(UEDA TAIKI)氏をご紹介しておこう。上田氏は1978年生まれ。富山県立砺波(となみ)高等学校を卒業し、早稲田大学に進学した。早稲田大学の学生時代に「iNSTANT WiFE」という劇団を主宰し演劇にのめり込んでいった。毎日のようにさまざまな小劇場から大劇場にまで足運び、学生時代の情熱はほぼ演劇に注ぎ込んでいたと言って間違いない。その中から縁あって、さまざまな演劇の劇中映像を制作するようになったのだそうだ。そして、2000年には「ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリを獲得、2003年の「同フェスティバル」ではグランプリを受賞。手がけた作品は、「ナイロン100°C」、「大人計画」、「阿佐ヶ谷スパイダース」、「劇団☆新感線」の劇中映像の制作、「木村カエラ」、「いきものがかり」のミュージックビデオ、「Mr.Children」、「レミオロメン」のLIVEにおける演出映像の制作と、話題作を立て続けに手掛けている。御覧になっている方も多いことだろう。現在、劇団であった「iNSTANT WiFE」は、上田大樹氏の映像ユニットとして活動して現在に至っている。
上田大樹氏を監督に迎えて制作された「PAST AND FUTURE」のインタビュー第2回。今回は、新宿歌舞伎町の解体されゆく「新宿TOKYU MILANO」内を舞台として、上田氏とYOKOI+「EL SQUAD」が表現した「PAST AND FUTURE」の行方を語っていただいた。
上田監督の中にある「PAST AND FUTURE」の行方とは?
デジタルに見える生の迫力とは?
テクノロジーが発達してCGでできるようになったことが多くなった反面、見ている方もよっぽどじゃないと驚かなくもなりました。だからこそ、やっぱり実際に人がやっているという生っぽさ、生の身体ならではの迫力がある。そこは一番大事にしたい。
僕自身やっていて、今までやってきたノウハウがまったく通用しなかったりする部分があるのもおもしろいし、画質など技術面が高性能になればなるほどよりリアリティーも増すので、実写と組み合わせたり、ゲーム的なモノをつくったりしてもおもしろいことができる可能性は感じます。
360°カメラだと、通常見えてはいけない撮影チームも逃げ場がない。全部写ってしまうからみな隠れようがない。そうすると、逆に撮影チームが見えていることも一つのリアリティとして、映像に入ってしまうことを良しとする考え方も生まれてくる。目的をもった映像制作なのに、街で何か撮影していたとしても、それが撮影なのか、ただのリアルな日常の様子でしかないのか見ている人がわからないなんて結果も起こりそうです。また、全てが主観の一人称の視点になるので、カメラとの距離感などの関係性が非常に大事になってきて、体験とは何かみたいなことまで考えざるをえないというか。
新宿に対してどのようなイメージをお持ちですか?
新宿は圧倒的に人間の種類が多いイメージがあります。活気があって、いい意味でゴチャゴチャしているというか。でも「PAST AND FUTURE」を撮影しに行った時は思ったよりきれいになっていて、前より行きやすくなったのかな、とも。
新宿シアターモリエールとか、シアターサンモールとか、100人くらいの芝居小屋もあって、そういう小さい劇場に足を運ぶことが新宿は多かったですね。
新宿武蔵野館とか映画館も一通り行ってるかな。学生だったのでTSUTAYAとか紀伊国屋書店は頻繁に。そういえば友達がコマ劇でアルバイトしていたので、その辺もよく行ってたかも。
「新宿TOKYU MILANO」の跡地も再開発の予定があるそうですが、新宿の街に期待するものは?
新宿の街中に浸食していきたい・・・。
施設の中でのイベントって、中に見に来た人は楽しいけれど、行かなかった人は「結局何があったの?」ってわからないままのことが多いですよね。目的をもって観に来ているわけではない人も、もちろんまったく同じ体験でなくていいけど、何かその作品なり出来事の世界観を同時多発的に共同体験できたり、感じられるような仕掛けができたらなと思います。その方が、小屋の中でやっている映像作品や演劇なども、一般の方が足を運ぶ敷居をもう少し低くできるのかな。と。
興味がある人が足を運ぶのはもちろん良いけれど、知らない人や通りがかりの人などにとっても知ってもらえて、小屋へ足を運ぶ方への間口がもっと広がればいいと思います。
かつて「新宿TOKYU MILANO」があった歌舞伎町の「昔と今」という感じだからこそ、内部だけでなく、記録写真を通して外の様子も多く登場させています。
気持ち的には街を広く捉えて撮っていますね。もっともっと街に入り込めたらという思いもあるので、いずれそういうこともできたら楽しいですね。
最近はネットなどで情報も得やすくなったけれど、残らない事もあります。忘れてしまっているだけかもしれませんが。実際に映画館や美術館、街へと足を運んだ時の方が、仕事や映像のアイディアも浮かびます。
よく見知った街の中で、「あれ、こんな場所あった?」とか「こんな路地あったんだ!」と気がついたり、新しい店を発見したりするとわくわくします。
今は生っぽさとか生身の人間と絡むのがおもしろいと思っているので、そういう街や人との映像が作れたらと思います。
上田監督の演劇に向ける愛情はこの上ないものがある。人が演じ、伝え合うものごと、そこには「人」そのものの多くの興味深さがある。それを、多くの人に共有してもらいたいのだと考えている。劇場という「箱」の中から、できることなら周辺の街まで取り込んで、「場」の共有、または経験の糸口にしたいという愛のある野望を抱いている。そこに、映像というテクニカルな新世紀の「技」を用いて上田流に革新できることはないか、と考えているようだった。
この街が新たな「過去」から「未来」へ進んでいくことを、上田監督にもぜひ見守り続けていただきたい。そして、さらなる上田流の新世紀に向かう「かぶいた」映像を生み続けていただきたいと期待し、注目し続けよう。
上田大樹(うえだ たいき)
映像ディレクター・アートディレクター。
ミュージックビデオやTV番組のオープニングなどの映像作品を多数手がけるほか、Mr.children、いきものがかりのライブやワンピース展の映像演出、CHANELの国内・海外店舗のためのアニメーション、劇団☆新感線・大人計画・NYLON100°Cなどの劇中映像など、映像と空間を融合させた演出を多数手がける。
近年手がけたものに『髑髏城の七人 Season鳥』、東京大学プロモーションビデオ「UTokyo/Society」、8K解像度ドラマ「囲むフォーメーションF」などがある。
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