「THE KNOT TOKYO Shinjuku」 街と人をつなぐ居心地の良い空間づくり

2019.04.19

都庁を有する新宿西口の高層ビル群のすぐそばにありながら、緑豊かに広がる新宿中央公園。新宿駅から進むとその公園のちょうど裏手に当たるエリアの人通りが、何やら最近活況を見せている。海外からの旅行者だけでなく、朝からパンを買いにくる人、レストランに食事をしにくる人、ベビーカーを押してランチにくる人などもいるという。

人の流れを新たにしたのは、20188月に開業したライフスタイルホテル「THE KNOT TOKYO Shinjuku」だろう。一見、年季の入ったレンガ壁の建物には、ベーカリーの入り口や開放的なテラス席が見える。13階建てにスイートルームを含む409室を備える同ホテルは、築39年の「新宿ニューシティホテル」を全館改修したもので、予想を超えるスピード(開業後、半年くらいで宿泊客の8割をインバウンドが占めればと想定していたところ、1ヶ月でその数字を達成、現在は9割近くを占める)で、日本人以上に海外の旅行客に人気ホテルとなった。中国、韓国、インドネシアの他、オーストラリアやアメリカなどアジア、欧米各国から人が集まる。

運用は不動産業を手がける東証一部上場の「いちご」(千代田区)で「THE KNOT」ブランドは、201712月「横浜国際ホテル」をリノベーションした「THE KNOT YOKOHAMA」に続く第2弾として、ホテルオペレーターである池田創業との協働で開業した。

THE KNOT推進室の清水みゆきさんは「新宿は訪日外国人全体の約20%が滞在する非常にポテンシャルの高い街。宿泊特化型にもラグジュアリーホテルにも属さないライフスタイル型と言われるホテルはトレンドになりつつありながら、新宿にはあまりなかった」と開業の経緯を振り返る。

その土地に合わせたデザインで展開し、同じブランドながら客室の内観からロゴに至るまで立地によって異なる。「強いコンセプトがなければただのリノベーションにとどまり、時間が経てば老朽化するだけの建物になってしまう。当ホテルは公園が目の前ながら、駅から少し距離があって飲食店もあまりなく、人通りが少なかったんです。そこで以前から存じ上げていた『流石(さすが)創造集団』にお声がけして企画立案をお願いしました」と清水さん。

「『流石創造集団』は青山の国連大学前に『ファーマーズマーケット』を生み、街と街、街と人をつなげるなどクリエイティブな街づくりを創造してきました。マーケットができたことで分断された表参道と渋谷という街が繋がり、人の流れが変わったようなことが、当ホテルにも必要なのではと思ったのです。私たちは『このホテルをどうしたらいいのか』という着眼点でしか見ていなかったのですが、『ホテルプロジェクトではなくて、西新宿プロジェクトという形で捉えて進めた方が面白くなるのでは』と提案いただいたところから具体的に話が進んでいきました」とも。

IDEÉ」の創始者、黒崎輝男さんが代表を務める「流石創造集団」の取締役、堀之内司さんは「10年くらい続けてきた青山ファーマーズマーケットの事例などを手掛ける中で、人が集まりそこにコンテンツがあれば、場所はどこであれいろいろな人たちが集まりそこが情報発信地化されるということがわかったので、僕らはそれを起点に、いろいろな有効地活用やコミューン作りをしてきたのです」と話す。

同物件を初めて見た堀之内さんは、「とにかく駅から遠く、車で通ってもなかなか意識の中に入ってこない不思議なエリアであり建物」と感じつつも、「公園の目の前だし、建物内のフレームもしっかりしていて、細かい壁など全部取っ払って大空間にしたら化けるのでは」と考えたそうだ。

そしてまず始めに建築家のチームと一緒に、くまなくホテルのあるエリア一体を練り歩いたという。「マップを作って気になる店、面白そうな建物を全部書き込んでいったんです。さらに妄想を膨らませて、ホテルの隣に例えば花屋や西新宿に元々多かった古レコード屋、クリエイターたちのアトリエが並んだらどうなるだろうとスケッチを書き足し、エリア全体がどう盛り上がるかイメージしてみたのです。そうして、やはりこのエリアのハブになるのはホテルなのではないか、と感じたのです」

「海外には宿泊客もそれ以外の人も、気軽に立ち寄れるようなオープンな雰囲気のホテルがありました。そうした、さまざまな人が混ざっている感じをここで作れたら界隈に溶け込んで面白いものができるのでないか。いわゆる新宿=歌舞伎町や都庁といった括りではない、新しい新宿の括りができるのではないかというのが、コンセプトの大きな要でした」と堀之内さん。

エントランスをくぐった時に感じる開放感は、朝早くからオープンするベーカリー、ティースタンド、タパス ラウンジと奥のレセプションなどがシームレスに繋がっていることにも寄るのかもしれない。2階にはゆったりと寛げるグリルやラウンジもあり、これら飲食業態は「MORETHAN(モアザン)」の名前で全て「株式会社MOTHERS」(武蔵野市)が一括して手掛けているのも大きな特徴だ。

改装後に各フロアにテナントとして出店してもらう飲食店探しは、立地的に難しいとの声が多く難航したという。堀之内さんは「テナント出店としてではなく、『一緒にホテルを新しく作りましょう』という形で、飲食店の方々に前面に出てきてもらえたらと提案させていただき、保村(良豪)さん(MOTHERS代表)が強く賛同してくださったんです。彼らの店づくりや高いサービス力、フレンドリーな接客がこのホテルに絶対に必要だと思いましたし、MOTHERSでなければここまで出来なかったと思います」と話す。

「僕らの少し上の世代は成功したら海外に家を持つとか、店をたくさん出すことが一つのステイタスでしたが、保村さんはそうしたことにかっこ良さを求めない世代というのも面白いなと思いました。じゃあ自分たちの代はどう将来を見据えたらいいのかと模索する中で、例えばホテルのオペレーションを手掛けることで、飲食で培ったホスピタリティーを年齢が上がってもホテルのフロントとして発揮できるといった、未来への新しい見え方が湧いてきたと保村さんは言います。飲食業界でも働き方やゴールの多様性が見えてきて、働いている若い子たちにとっても道が開けてきますよね。そうしたタイミングとも合ったと思います」とも。

各店の名前を全部統一したのも保村さんの発想。働いているスタッフそれぞれが「グリルチーム」「カフェチーム」と自然にグルーピング化されることなく、一丸となれる工夫だという。「サービスだけでなく空間づくりに関しても保村さんはライブ感を重視していて、テーブルの配置や照明の色、壁のアートの位置に至るまで、常に気を配って手を掛けてきました。設計もデザイナーもアーティストも全部含めるとかなりの人数いるんですが、一つのコンセプトに向かってそれぞれが素材を出し合い、みんなで編集して作ってきた空間なので、唯一無二のホテル空間になったのではと思います」と堀之内さん。

実は流石創造集団にとっても初めての挑戦だったという「ホテル」。堀之内さんは「事前にコンセプトイメージはあっても、現場で進めながら決めて、本当に最後に作り込む時点で変えたりアレンジしたりするんです。仕事の進め方は両社体質が違うので、ずっとギャップもあり大変でした」と振り返る。清水さんも「旅が身近になってホテルの在り方も変わってきているのにもかかわらず、どうしても従前のホテル成功事例に沿い同じようなことをしがち。そこを脱却したい、日本に存在する既存のホテル概念以上のホテルを作りたいと思っていました。流石創造さんと一緒にリノベーションまで時間がない中、企画、プランを社内に説得するのはなかなか大変でした(笑)」と話す。

「イメージしていても、なかなかそれは実際にできて見てみないとわからなくて。でもオープニングパーティーで人が大勢入った時に、良かったなって思いました。いちごさんも『そうだよ、これだよ』と言ってくださってホッとしました」と堀之内さん。

館内ではドキュメンタリーフィルム上映会や、DJによる音楽を聴きながらアート鑑賞や食事をするなど自由に過ごせるイベント、写真やアートの展示を定期的に行うほか、トーキョーバイクとのコラボによるレンタルサイクルを提供し、ガイドブックに載らないような店を紹介したローカルマップなども用意している。これらタブロイドやWEBの制作を担当する「メディアサーフコミュンケーションズ」の堀江さんは、「定期的に紙媒体を作れば、残るし、渡すこともできます。街やその場所が面白いと思ってくれたらその街に泊まるだろうし、ホテルから街へも出たくなるようなコンテンツ作りを目指しています」と話す。

「紙の手触りとか読んだ場所とかがセットになって記憶に刷り込まれるということありますよね」と堀之内さん。清水さんも「オンラインで情報収集するといっても最終的にコンセプトやフィロソフィーを気に入ってくださる方々は、遊びに来た時に思い出に持って帰ったり、ここに飾ってある絵を購入したり、何か形に残るものを求めると思うんですね」と続ける。「五感で感じられるものはとても大切だと思います。画一的なサービスやマニュアル通りのものではない、臨機応変に機転がきくというか、より柔軟性を持ったサービスが今求められていると思うし、この空間でそれを提供していけたらと思っています」とも。

堀之内さんは「街って、地層みたいに歴史や人の営みが積み重なっていて、元々ここ一帯も池があったり、料亭が立ち並んでいたり、文化とか人間の性(さが)のようなものが溜まっていた場所だと思うんです。それが現在の街の個性になっていて面白いなと思います。このホテルの持ついい意味でユルい感じというのは、元々のユルさも合わさってできていると思うんですよね。いつも大事だと思うのは、せっかく来てくれているお客さんに一言でも声をかけたい、『何かいいことをしてあげたい』ということです。買ってもらおうとかでなくて、せっかく来てくれたのだからいい気分で帰ってもらいたい、基本はそれだけですね」と締めくくった。

 関連リンク  
「THE KNOT TOKYO Shinjuku」 https://hotel-the-knot.jp/tokyoshinjuku/

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