街のにぎわいに必要なもの、そして子供たちに夢を
創業当時から変わらない思いで歩み続ける
「新宿バッティングセンター」

2020.03.23

新宿駅を出て靖国通りを渡り、「新宿区役所」のある区役所通りを北に10分ほど歩くと、なんとも懐かしい佇まいの「新宿バッティングセンター」が見えてくる。住所は新宿区歌舞伎町2丁目。若い頃、新宿で飲んだり食べたりした帰りに立ち寄ったという青春時代の思い出を持つ人も多くいる一方で、若い人や観光で訪れた外国人には「こんな一大歓楽街に昔ながらの平屋のバッティングセンターがあるなんて」と新鮮な光景に映るかもしれない。

1978(昭和53)年にオープンし、創業42年目を迎える。老舗喫茶店「珈琲西武」などをはじめとする飲食業を新宿で展開する地元の企業、三信商事が運営する。部長の村山拓さんは「ほかの街にも食事をしたり遊んだりできる場所がいろいろとありますが、バッティングセンターがある街ってそうないと思います。どちらかというとロードサイドで親子が楽しんでいるようなイメージのバッティングセンターが、アジアでも有数の歓楽街である歌舞伎町の街なかに『遊び』の選択肢の一つとしてあるというのは、面白いと捉えていただいているように思います。街の目印の一つ、ランドマーク的な位置付けにもなっているようで、この辺りを通る方々や街自体とそのように共有できているというのは嬉しいですね」と話す。

バッティングセンターはいかにしてこの街に生まれたのだろうか?
「創業者がビジネスの目的としていたのは『今、何がこの街に必要か』ということでした。生活に最低限必要なものを求めていた戦後の復興期を経て、楽しく生きようとする時代がやってきた時に、街に『娯楽』がない。それならば自分たちで作ろうとキャバレーやスマートボール(ピンボールのようなゲーム)を展開する流れの中に、バッティングセンターもあったのです」と村山さん。
それは新宿という街をテーマに「街にまだないもの、こんなものがあったら街にもっと人が来るのではないか」というチャレンジだけではなかったと続ける。
「娯楽施設など大人が楽しめる空間を弊社で手掛けてきたイメージがあるかもしれませんが、飲食店やバッティングセンターのような施設は『子どもの夢』をどう表現していけるかということを大事にしていて、いわば社の両輪をなしていたと言えると思います。昭和に流行した『巨人・大鵬・卵焼き』といったフレーズで言われたような、子どもたちが大好きなものの一つに野球があって、それを手軽に体感できるもの、一人でもできるものとして『バッティングセンター』があったらいいのではないかと始めたんですね」

昔ながらの電飾も当時はさぞモダンだったのでは。「お金が大切な時代にお金を使って遊ぶだけの価値があるような空間を演出するために非日常的なデザインや機材など、こうした部分の表現は大事にしていたのでは。お金をかけて古いものって作れないですよね」(村山さん)

その思いは1964(昭和39)年に創業した『珈琲西武』にも見て取れるという。
「『珈琲西武』のプリンアラモードはとてもボリュームがあって、近年ではSNSなどで映えると大変好評いただいているのですが、どうしてこんなに大きくなったのか、よく聞かれます。諸先輩方に聞いてみると、これは元々子どもたちに喜んでもらうためにどうするべきか考えて作ったものだったそうです。

戦後食べることも大変な時代の次に、もう少し幸福が求められるようになり、外食産業として子どもたちに『すごいね!』と思ってもらうためには、皿の中から飛び出すほどたくさん盛られているのが贅沢で、それが一番わかりやすく喜ばれる時代でした。
背景の時代が変わっただけで、私たちは当初の思いを変えずにずっと続けてきただけなのです。喫茶店もバッティングセンターもその時代には一番必要とされていたものだったのではと思います。原点は子どもが何を欲していて、何が楽しいと思っているのか。その思いに答えながら、その場所なり施設が街に土着し、長く続けていくことができればと思っています」と村山さん。
「毎日がイベント。」と題し連日、「会員の日」や「レディースデー」「回数券抽選会」「ホームランを狙え!」などを実施する。12あるボックス(1つはストラックアウト)は男性だけでなく女性客の姿も多く、土日は朝から近隣の野球少年たちがたくさん来るそうだ。

「数年前まではほぼ男性客でしたが、女性の方にももっとウェルカムな店にできないかと、靴のレンタルやストッキングの販売などを整えました。またバッティングセンターは海外にはあまりないようで、外国の方に分かりづらかったことを受け、パンフレットを5ヶ国語にしたり店頭表記に英語を加えたりと、遊びたい人がより気軽に遊べるよう時代と共に門戸を広げる努力を重ねてきました。毎日イベントを行っているのも、常連の方でも月一回利用する方でも、女性でも男性でも、多様な方にいつ来ても何かしら楽しみがあるよう考えて始めた取り組みです」と村山さん。

「従業員が『ボク』って呼んでいたような子どもが成人して、自分の子どもを連れて遊びに来たりするなんてこともあります(笑) それが街ですよね。長く続けているからこその私たちにとっての楽しみでもありますが、お客さまにとっても『まだあるんだ!』と、新宿という変化の早い街の中で原風景のように存在し続けられたらと思います。

歌舞伎町というとちょっと『闇』のようなイメージも見え隠れして、いいも悪いも、新しさも昔ながらのものも混ざって迷路みたいなところがあると感じます。光と影が混在し融合して輝いている、その謎めいている感じもこの街の良さでありブランドになっているのかなと思います。その中でどちらかというと女性とか子供というイメージは、なかなかリンクしないところもあるかもしれませんが、私たちみたいな昔からやらせていただいている企業が子どもや女性目線に立ったパッケージを提供し続けなければと考えていますし、この街の活気に必要だということを信じてやっていけたらと思います。目先の利益だけでなく、街への、地域への恩返しではないけれど、共生していく中でそういう企業が増えればいいと思います」

「新宿バッティングセンター」
東京都新宿区歌舞伎町2-21-13
TEL 03-3200-2478
営業時間 10時〜28時(ゲームコーナーは25時まで)。

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
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