ファッションビルにメディアを組み合わせた斬新な発想
創業時から変わらない「スタジオアルタ」の理念と
進化するアルタビジョン <後編>

2021.08.12

新宿東口駅前のスタジオアルタ(現新宿アルタ)は、日本で初ともいわれる大型ビジョンを壁面に設け、ファッション、レストランにさまざまな形の情報発信を組み合わせた新しいスタイルのビルとして、1980(昭和55)年に登場した。ビル内のスタジオでは連日テレビ番組の収録が行われ、コンサートや演劇公演、文化講座などの催しも次々に開催し、新宿の街に新風を巻き起こした。
現在も変わらず新宿を象徴するスポットとなっているスタジオアルタについて株式会社スタジオアルタ 営業部メディア営業担当長 井上尚志さんに伺った。

アルタビジョンの前に集まる人々(「笑っていいとも!」最終放映日の様子)。 資料提供先、所蔵先:「新宿歴史博物館」

編集部:
時代の変遷の中で、街頭大型ビジョンの在り方はどのように変わってきているのでしょうか。

2001(平成13)年、3代目にリニューアルし、大型ビジョンとして世界初のハイビジョン放映を始めました。画面の大きさや鮮明さなどが求められ、デジカメも画素数が競われた時代にあって、映像・表示技術における最先端のものが見られるといったムーブメントが大型ビジョンにおいても起こっていました。
現在は、例えばアルタビジョンを4Kにリニューアルしたからといって、かつてのようなインパクトを与えることは難しく、他のテクノロジーと組み合わせていくなど新たな付加価値をつけていかなければと考えています。広告メディアとしての見せ方だけではなく、他にはない面白い体験や、大型ビジョンのある場所を活用した立体的な演出が求められてきていると感じています。

2020年。4代目のアルタビジョン

編集部:
新たなテクノロジーとの組み合わせについては、どのような可能性が広がっていますか?

近年、「集める広げる」(人を集めて話題を広げる)と呼ぶ戦略を進めてきました。大型ビジョンは、基本的には通りがかりの人に偶然にコンテンツを接触させるものですが、SNSの利用が増えたこととも連動して、事前に配信内容や日時を告知することで集客し拡散するという新しい展開ができるようになりました。

SNS利用が活発になり始めた10年ほど前は、「アルタ前は待ち合わせして人が多くいるけれど、みんな携帯を見ていてビジョンを見ていない」と言われ、新しい技術が我々にとって脅威になると思っていました。ところが「集める広げる」では、大勢の人がスマホでアルタビジョンの画面を撮影し、SNSで拡散するという現象がよく見られたんです。魅力的なコンテンツがあれば、スマホと大型ビジョンは非常に親和性が高いということに気がつきました。

ネット上のデジタルな情報とは違い、リアルにある大画面をみんなが一斉に見ながら、「私が今ここにいて、その瞬間を切り取っている」と拡散することが自己表現になり、そのSNSを見た人たちが「今アルタビジョンで何をやっているの?」とまた話題を広めていきます。渋谷など場所によっては規制があってできないのですが、アルタビジョンでは事前告知によるコンテンツ配信も可能なので、他のメディアとの差別化を図り、アルタビジョンの価値を高めていくことにも繋げられると思っています。大勢の人を集め、体験を共有するというのは大きな強みであると思っているので、コロナ禍が収束したらまたいろいろ企画していきたいと思います。

今年はそれとはまた別に、スマホと連携しリアルな場に一斉に集まらなくても体験できるような仕組みづくりにも取り組んでいます。スマホをアルタビジョンにかざすと、アルタ前に違った空間が現れるなど、いわゆるAR(拡張現実:現実世界に仮想の世界を重ねて体験できる)やVR(仮想現実:現実のように体験できる仮想世界技術)を進化させたものを仕掛けとして進めています。
三越伊勢丹が提供する仮想都市空間サービス「REV WORLDS(β版)3月にローンチしました。アバターを操作し楽しむことができるバーチャル空間上には、スタジオアルタも登場します。いずれアルタ前の広場が再現され、リアルで放映しているようなコンテンツをバーチャル上のビジョンで発信できれば、どこにいても疑似体験が可能になると期待しています。

編集部:
リアルとデジタルが融合しながら、新宿の街なかで立体的な体験を提供するアルタビジョンの未来に期待が高まります。

より街に根ざした地域メディアとして新宿になくてはならない存在になっていきたいと思っています。新型コロナウィルス感染症拡大防止対策で現在もなお、新宿区内の飲食店などが影響を受けていますが、昨年はそうした飲食店への応援を込めて、各店舗に送ってもらった写真をスライドにしてアルタビジョンで無料放映を行いました。
また、最近は地方自治体で動画を作られているところも多く、そうした日本各地も応援していきたいといろいろな取り組みを考えています。例えば当社は三越伊勢丹グループ会社でもありますので、各土地の名産品などを大型ビジョンで紹介するだけでなく、グループ内の百貨店で販売したり、区内の飲食店でその名産品を使った特別メニューが食べられるようにしたりするなど、街全体で<物産展>のような展開ができれば、互いに効果が期待できるような形を作り、来街者へ新たな体験を提供できるのではないかと考えています。

新宿にはアルタビジョンのほか、ユニカビジョンやフラッグスビジョンもありますので、今後共通のコンテンツを流すなど、連携も視野に入れています。JR新宿駅構内に完成した東西自由通路にもデジタルサイネージが設置されましたが、同通路からアルタ前に出られるお客さまも多いですし、そういう意味ではタッチポイントが増えていると捉えています。その街の特性と一致している点が、屋外媒体である大型ビジョンの特徴だと思うので、私たちは新宿という立地で発信力を高めるために、何をしていくべきか常に意識しなければと思っています。創業時にアルタの社名に込めた<次に来るべきもの>を、次の時代に向けて発展させるべく進んでいきたいと思っています。

取材時に見せていただいたスタジオアルタ開業当時の資料にはこんな印象的な一文が書かれていた。
「アルタとは『場』と『ひと』というメディアを持つ、一種の触媒であり、新宿という高単位のエネルギーを持った物質に化学変化を起こさせる役割を担うものと考えることができる」
これからもスタジオアルタが発信する新たな体験にぜひ注目していただけたらと思う。

*2021年5月13日取材

関連URL

スタジオアルタ
https://www.studio-alta.co.jp/

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