新宿東口駅前に現代アートで彩られた広場が誕生
アートを監修・製作した松山智一さんが捉えた新宿とは

2020.09.08

2020年719日、JR新宿駅東口駅前広場の新たな姿がお披露目となった。この日は、新宿駅の東と西、両エリアを自由に通り抜けることができる駅構内の東西自由通路が開通した日でもある。新たな通路から東側の地上へ出ると、華やかな現代アートで彩られた空間に立つ、7メートルの巨大なモニュメントが目に飛び込んでくる。

もともとあった広場を大規模リニューアルした同計画は、広場に面した駅ビル「LUMINE EST」などを手掛ける株式会社ルミネ(渋谷区)が新宿東口駅前の美化整備のため、JR東日本(同)と共同で進めてきたもの。「LUMINE meets ART PROJECT」と題した、次世代のアーティストを発掘するアートアワードや、イベントホール「ルミネゼロ」を活用した展覧会、アートフェアなどを積極的に展開してきたルミネが、広場の整備にあたり目指したのは「地元との共生」「都市と自然が融合した新型コミュニティスペースの創造」だった。そこには、ありふれた美化にとどまらず「ストーリーを語れる場所を作ることで街の発展に貢献したい」との思いが込められており、広場全体がアート作品となるよう考えられたという。

アート監修・製作に起用されたのは、気鋭の現代アーティスト・松山智一さん。1976(昭和51)年、岐阜県出身の松山さんは現在、NYを拠点に活動しながら世界各地のギャラリー、美術館で展覧会を開催し、著名人や世界的企業が彼の作品をコレクションする。2019年にはキース・ヘリングやバンクシーなどが作品を描いた米「バワリー・ミューラル」の壁画アーティストに選ばれたほか、明治神宮創建100周年を記念した野外彫刻展でも立体彫刻を展示している。

松山智一さん ©小田駿一

ルミネの担当者は起用の理由について「松山氏の作品の特徴でもある『西洋と東洋』『古典とポップカルチャー』などの相反する要素をサンプリングするスタイルが、オフィス街と繁華街が共存する新宿、世界中の多種多様な人が集まるカオス感の表現に非常にマッチする。アートに詳しくなくても、見るだけで誰もが楽しめる作風です」と話す。

松山さんが掲げたコンセプトは「Metro-Bewilder」(Metro=都会、Wild=自然、Bewilder=当惑の3つを合わせた造語)、そして「グローカル」。
松山さんは「ミクロな視点では、この広場はこれまであまり活用されていない場であったものの、見るアングルによっては『東京らしさ』を発見できる場所だと思った。そこで『Metro-Bewilder』=新宿の大都会の中に自然をアートとくっつけて『来る人たちに驚きを提供する』というコンセプトにしました。マクロな視点では、新宿は世界で一番交通量があるとも言われ、世界中から商業・文化・飲食などを求めて訪れる場所であると同時に、いまだにローカルカルチャーが根付いている場所でもあります。これは東京でもなかなかないことで、グローバルとローカルが共存しているからこそ喧騒感があり、個性がある。そうした新宿のキャラクターが生まれているので、グローカルをコンセプトにプランニングしました」と振り返る。

中央に立つシンボリックなモニュメントは、抽象化した「花束を持っている人物」をモチーフにする。「この場所を訪れる方への歓迎の気持ちと自然を表す花」を組み合わせ、都市を連想させる人工物であるステンレスを用いて表現している。

ベンチが組み込まれたアール状の壁や植栽帯部分など、アートと建築が一つになるよう、「sinato」代表の大野力さんが全体の建築デザイン設計を担当

未来の新宿について松山さんに伺うと「新宿の街がどうなって欲しいかは、僕が言える立場ではないと思います。今回のプロジェクトは都市開発ではなく、整理することが僕の役割でした。東京の中でも稀有なハブとして濃密な文化が重なり合い、守られてきた新宿の個性を、僕は拾っただけにすぎません。そうしたキャラクターを、都市開発という名目でなくしてしまうことだけはしないでほしいと思っています」と語った。

ルミネ担当者は「地元の方々のコミュニティスペースとして、また国内外から新宿を訪れる方々の待ち合わせや憩いの場として、このランドマーク的な場からグローカルな交流が生まれれば」と期待を込める。

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