歌舞伎町にゆかりのある作品 #2 空知英秋「銀魂」

2021.12.15

物語のリアルな舞台や架空の街のイメージとして、「歌舞伎町」にゆかりのある作品を紹介するコラムの第2回。今回は空知英秋さんの「銀魂(ぎんたま)」を取り上げたい。

©空知英秋/集英社

「銀魂」は空知さん初の連載として2004年〜2018年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)に掲載された作品。その後、「ジャンプGIGA」を経て、2019年「銀魂公式アプリ」で物語は完結した。刊行された単行本は全77巻。テレビアニメ、3本のアニメーション映画のほか、2017年、2018年には小栗旬さん、菅田将暉さん、橋本環奈さんら主演による実写映画も公開された。

「銀魂」の舞台となっているのは架空の江戸の町だ。一見すると通りには甘味処やそば屋が並び、侍や商人たちが行き交うようなかつての町の風情が感じられるが、ページをめくってみれば、この町にはファミレスや駅もある。通りを我が物顔で闊歩するのは宇宙人で、瓦屋根の平屋が立ち並ぶ風景のかなたには近代的な超高層ビルがそびえ、空には宇宙船まで飛んでいる。

このなんともハイブリッドな町の名前の一つになっているのが「かぶき町」だ。町は20年前、突如宇宙からやってきた「天人(あまんと)」と呼ばれる異人たちによって鎖国を解かれ、廃刀令によって多くの侍が力を失っていた。
主人公は坂田銀時(ぎんとき)。「スナックお登勢」の2階に、頼まれれば何でも引き受ける「万事屋 銀ちゃん」を構えるこの男、時にのらりくらりけだるそうにしているが、かつて武神とも恐れられた剣の達人である。
銀時、そして銀時に「侍スピリット」を感じ彼の元で働き始めた剣術道場の息子・志村新八、同じくバイト仲間になった宇宙最強の戦闘民族「夜兎族」の少女・神楽らは、共に江戸の町を巻き込む事件解決に立ち向かっていく。個性豊かな登場人物たちが繰り広げるギャグやアクション満載の人情物語だ。

「かぶき町」はあくまで架空の町だが、実存の街「歌舞伎町」が誕生したのは昭和20年代のことである。今では日本屈指の繁華街として誰もが知る名前となったが、元々賑わいを見せていたのは現在の新宿三丁目交差点から東側一帯の方である。江戸の中心からは離れたのどかな農村が広がる郊外に、江戸時代中頃になって宿場町「内藤新宿」が誕生し、江戸に最も近い宿場町として一気に華やかな文化が花開いていったのである。

宿場町にはもしかすると、銀時のような「かぶいた」人間が歩いていたかもしれない。戦国の世から時代が江戸に移ると、失業した武士や戦で主を失った浪人者などの中から、ひげ面で一風変わった羽織に長い刀を差し、南蛮渡来の品を模したネックレスなどを身につけるような、奇抜な格好をして町を闊歩する「異相の男」たちが出てきたという。彼らは「傾(かぶ)く」(まっすぐである道から外れた行動を取る、勝手気ままに振る舞う様)の言葉から「カブキ者」または「カブキ」と呼ばれるようになった。
そして「歌舞伎」は、出雲のお国という女性が彼ら「カブキ者」を真似して踊った「カブキ踊り」がその源流なのである。

「カブキ者」の自己を主張した風情と生き様は、他とは違っていながらもどこか粋で、きっと周囲の人々の目を惹きつけたに違いない。そして「歌舞伎」もまた江戸時代、多くの流行を呼び同時代の文化発信拠点となっていったのである。

これまでにないSFと時代劇のハイブリッドな世界で活躍する、銀時と彼をとりまく仲間たちの物語を楽しんでみてはいかがだろうか。

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