前編では、ヒューマックスグループ誕生のきっかけとなった「ムーランルージュ新宿座」と、歌舞伎町シネシティ広場に立つ2つのビル「ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町」「ヒューマックスパビリオン新宿アネックス」の前身となる「新宿地球座」「新宿劇場」についてご紹介した。
後編はさまざまな楽しみを提供する現在の事業展開と歌舞伎町の街について、株式会社ヒューマックス 取締役の戸田史朗さん、不動産統括部 建築担当部長の小岩英之さんにお話を伺った。
伝説のクラブともいわれた「クラブ・ムーランルージュ」など、「新宿地球会館」は当時、都内でほかに類を見ない総合レジャービルだったと伺いました。現在も多様な形の娯楽体験をご提供されていらっしゃいます。
ヒューマックスグループは商業施設の運用、管理開発を手掛ける当社を筆頭に、飲食事業を手掛ける株式会社ワンダーテーブル、映画興行・映像関連事業の株式会社ヒューマックスシネマ、エンタテイメント事業の株式会社ヒューマックスエンタテイメント、アミューズメント施設を運営するジョイパックレジャー株式会社などで構成し、「観る」「遊ぶ」「食べる」の3つの分野で事業を展開しています。
当社が手掛ける施設はもともと映画館が入るような土地面積を持ったビルが多いのが特徴です。歌舞伎町でいえば東宝さんや、(建設中の)東急さんという大きい建物がありますが、この2つを除くと1フロアの区画はなかなか他にはない広さです。その規模感を活用しながら、今のコト消費にマッチする、人がリアルにその場に行きたくなるようなビルを構成していけたらと考えています。
プロレスイベントからダンス、演劇公演など行う「新宿FACE」も、ライブハウス「新宿BLAZE」も、これまでにないような空間になっていますね。
「新宿FACE」は以前「リキッドルーム」というライブハウスがテナントとしてあったところで、やはり真ん中に柱のない大きなフロアです。跡地の活用を考えた時、多用途に使えたほうが良いのではないかと考え、プロレスファンでもあった堺屋太一さんとの縁もあり、リングを所有し四方に観客席を設けたスペースが誕生しました。
オープニングイベントも女子格闘技と女子プロレスのミックスイベントでした。ライブ時などは一見使いにくいのではないかと思うのですが、面白いことに施設を見て「こんな使い方ができるんじゃないか」と利用者が自由に考えてくださいます。劇場スタイルの会場として使うこともできますし、「会場」の個性に呼応したお客さまが多く利用してくださっています。
「新宿BLAZE」の収容人数は800人ですが、メジャーを目指すバンドやアイドルにとって登竜門的な場所になっているようです。歌舞伎町にも小さいライブハウスがたくさんありますが、そうした100人、200人規模で頑張ってきた人たちが、ステップアップして「新宿BLAZE」でできるようになり、その後、もっと大きな会場を目指していく。ちょうどよい規模感のスペースというのは他に意外となくて、その「ニッチ」さに加え、アクセスのいい新宿、駅近の歌舞伎町にあるということは強みになっていると思います。
ほかにも、出店してくださっている「バグース」さんは、その規模の大きさから「ビリヤードの聖地」と呼ばれファンに注目される場所になっているようです。無柱の空間にずらりと並んだビリヤード台を見渡せる様は映画「ハスラー2」のよう(笑)。大きな大会も開催できます。街の魅力とともに、箱の規模感は大きい要素ではないかと思います。
グループで手掛けるジャンルの違った店が一つのビルに同居することで、相乗効果も生まれるのでしょうか?
各エンタテインメント施設で開催のイベントに合わせて映画館で関連上映を行ったり、ボウリング場とレストランでの食事を組み合わせたパックプランを企画したりするなど、互いのPRや集客に繋がりますし、各グループの本社機能が同じ場所にありますから、やりやすさはあると思います。
グループ内で考えた時に、貸す側は賃料が多少安いかもしれないけれど、そのおかげで何かチャレンジしたり特徴ある事業ができたりする点は、不動産を持ちかつそこでビジネスを展開しているところの大きな強みです。グループ全体でどのような展開ができるのか、共通し合う部分を活かし互いに助け合う中で、シナジーのようなものが生まれていけばと思っています。
いろいろな街で事業を展開されていますが、新宿はどのような街だと捉えていらっしゃいますか?
歌舞伎町は世界でも有数の繁華街ですし、コロナ以前には膨大な数の外国人観光客が来ていました。ビジネス、特に興行を行う上で一番重要なのは、「人が集まる場所」だと思います。「新宿東宝ビル」ができ、東急さんによる再開発計画も進む中、街全体が変化していくことへの期待感もありますし、一緒に協力して街を良くしていくことが我々のビルにとってもプラスになると思っています。海外からの客足が戻った後、溢れるように街を訪れる観光客にどう対応するのか、エンターテインメントなり飲食なり、面白いことを仕掛けていきたいと思っています。
新宿がどんな街か表現するのは、すごく難しいですね。乗降客数からしても街の規模からしても一番で、かつ歌舞伎町や思い出横丁、新宿大通りや3丁目の奥のような場所もあれば、高層ビル群の西口エリアもあって、非常に多様な様相をしています。
歴史を辿ってみると新しい街ながら一気に文化が花開いたような、いろいろな文化の発祥の地でもあり、多様かつ混在していて一言では言い表せないように思います。
ただ新宿は、創業者が「ムーランルージュ新宿座」の再興からスタートした街であり、歌舞伎町界隈では街の誕生の頃からビジネスを展開してきた歴史があるので、やはり僕らの会社のDNAというのは新宿にあって、いろいろな街でチャレンジしていますが、根本のところには新宿への特別な思いというのがあるのではないかと感じます。
90年代にオープンしたバーチャルシアター(映像、音響に椅子の動きなどが加わりよりリアルな体感が味わえる)など、常に時代の中でさまざまなチャレンジをされていらっしゃいます。その原動力はどんなところにあるのでしょうか?
創業者の血かもしれません(笑)。3代目である代表も、利益以前にまず、何か「オモロイ」ことを大切なキーワードにしています。不動産収益会社なのでじっとしていればそのままでもいられるかもしれませんが、何か変化を加えられないか、どうやったら面白くしていけるか、それを自分たちも面白がりながら見つけていけたらと日々思っています。
今でこそ歌舞伎町も繁華街として賑わっていますが、当時は焼け野原で何もない土地にぽつんとビルを建てました。それは以文の先見の明というか、本当にその決断があったからこそ、それをベースにこれまでいろいろなチャレンジができたのではないかと思います。
時代が移り変わる中で、これからどのような展開を考えていらっしゃいますか?
「市場を拓(ひら)き嬉しい時間(とき)を創る」を企業理念として掲げています。「市場を拓く」というのは、映画館の興行主としても外食産業としてもそれぞれがメジャーな会社ではない中で、各事業体が「自分たちの一番得意なところは何か」を考え、マーケットを作っていきながら、かつお客さまが笑顔になれるような場をきちんと作ろうということです。これまでもそのように進んできた経緯がありますし、今後も特徴あるコンテンツを作り、ユニーク(ほかと異なる)な娯楽を企画しながら、お客さまの心に残る「嬉しい時間」を提供していけたらと思います。
コロナ禍で世の中全体が今までなかったことを体験し、人の価値観も大きく変わってきています。リアルとオンラインのようなものが共存しながら社会が進む中で、その場所に行って体験できること、「リアルの価値」とはどのようなものかということが今1番のテーマです。映画館でただ映画を観るだけではなく何かその先の体験、レストランもテイクアウトやデリバリーを手掛けていますが、その店に食べにいく価値をどのように作っていくかを考える必要があります。良いと思ったら即チャレンジをしてみる、良かったら続けるし駄目だったらまた新しいアイディアを考える。社内のアクションの速さも変わってきています。世の中が変化を受け入れてくれるような土壌もある今、変化できるチャンスだと思います。
※画像資料提供先・所蔵先:株式会社ヒューマックス