新宿副都心の夜景を背景に映画を楽しむ
新宿中央公園の魅力を伝え、
街を盛り上げる野外上映イベント

2021.07.06

新宿駅周辺には、歌舞伎町のようなにぎやかな繁華街に、小さな店が連なるゴールデン街、百貨店をはじめショッピングなどがさまざまに楽しめる店、副都心の高層ビル群など多様な風景が広がる。そんな都会でありながら区内を見渡してみると、新宿御苑、明治神宮外苑など広大な緑に囲まれた公園が広がっている。
今回は公園の中から、西新宿エリアのキースポットでもある新宿中央公園をテーマに、「公園の新しい楽しみ方を発信しながら、街全体を盛り上げたい」という思いで行われてきた野外上映イベントを紹介したい。

その前に少しだけ新宿中央公園の歴史を見ておこう。高層ビルが立ち並ぶ西新宿エリアにはかつて、明治後半に完成した淀橋浄水場があった。1965(昭和40)年に同浄水場が廃止、移転になったことを機に新宿副都心計画が始まり、公園はその計画の一環として、1968(昭和43)年4月、東京都立新宿中央公園として開園した(後に新宿区へ移管)。新宿区立の公園としては最大の広さを持ち、ジャブジャブ池のあるちびっこ広場をはじめ、多目的運動広場、新宿ナイアガラの滝に面して広がる水の広場、開放感あふれる芝生広場、フットサル施設などが併設された園内は、高層ビル街にありながら行き交う人々の憩いの場となっている。歌舞伎町を氏子町の一つとする熊野神社が建つのもこの中央公園内である。

野外映画上映は、こうした公園空間と周囲に広がる高層ビルの夜景を活かして行われてきたイベントで、公園内に設置された巨大スクリーンで映画を鑑賞しながら、食事などを楽しむことができる。

「Screen@ Shinjuku Central Park2018」の様子「Screen@ Shinjuku Central Park2018」の様子

その一つ「Screen Shinjuku Central Park」は、小田急電鉄が2016(平成28)年から毎年夏に主催してきたイベント。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ワイルド・スピード スカイミッション」などの作品を日替わりで上映するほか、仕事帰りにより気軽に楽しめるよう、520分程度のショートフィルムを集めたオリジナルプログラムなどを織り交ぜている。2017年には、早い時間から浴衣を着て新宿の街を楽しめるよう、近隣のホテルと提携(有料で浴衣のレンタルと着付けサービスを行う)するなど、毎年来場者に新しい体験や楽しみ方を提供できるよう、趣向を凝らす。
翌年以降は「新宿シネマ&バル」と題し、新宿駅周辺の飲食店とコラボレーションすることで、映画鑑賞と食べ歩き、飲み歩きなど街を回遊しながら楽しめる新宿の魅力を発信してきた。年々、連携の幅を広げているのも特徴の一つになっている。新型コロナウィルス感染拡大で2020年は延期となったが、今年はコロナ禍でも楽しめる工夫を凝らし、実施に向けた検討をしているという。

「Screen@ Shinjuku Central Park2017」「Screen@ Shinjuku Central Park2017」

もう一つ、一般社団法人新宿観光振興協会、同イベント実行委員会の主催で2017(平成29)年に始まった「新宿パークシネマフェスティバル」も恒例のイベントになりつつある。今回お話を伺った同協会事務局長の高橋美香さんは「新宿中央公園は、豊かな自然に囲まれた都会の中の貴重なオアシス。新宿の観光資源としてその魅力を知っていただけるよう、協会で発行している無料の情報誌『新宿プラス』などでもこれまでたびたび紹介している、新宿の名所です」と話す。

2018年に開催した「新宿パークシネマフェスティバル」の様子2018年に開催した「新宿パークシネマフェスティバル」の様子
観覧席の様子(「新宿パークシネマフェスティバル」)観覧席の様子(「新宿パークシネマフェスティバル」)

上映イベントは「新宿で働く人、地域にお住まいの人、外国人旅行者など誰もが気軽に参加でき新しい交流が生まれるような場づくりをと考え、合わせて新宿の街や公園の新しい楽しみ方も提案できればと企画しました。新宿にはシネコンや名画座、個性派ミニシアターが多くあり、このイベントとともに『映画の街・新宿』を定着させていけたら、という思いもあります」と説明する。

参加人数に応じてフリーチェアも用意(「新宿パークシネマフェスティバル」)参加人数に応じてフリーチェアも用意(「新宿パークシネマフェスティバル」)

「国際観光都市・新宿」の特徴とも言える「多様性」をテーマに、上映作品の選定をしているのもこのイベントの特色となっている。2017(平成29)年は「違いを超えた愛・友情」をサブテーマに、西新宿が舞台となった「ロスト・イン・トランスレーション」をはじめ、「スクール・オブ・ロック」「ドリームガールズ」など8作品。2018(平成30)年は、多様性に寛容であることの意義や大切さを考えるきっかけを与えてくれるような10作品。「マリーゴールドホテルで会いましょう」「ギフテッド」のほか、回を重ねるごとに増えた子ども連れでの参加に応え、「ナイトミュージアム」や「ファンタスティックMr.FOX」を吹き替え上映する回も設けた。2019年はFOXサーチライト・ピクチャーズ傑作セレクションとして、「犬ヶ島」や「JUNO」「ブルックリン」など5作品を上映した。

上映会場の雰囲気に合わせたて出店したキッチンカー(「新宿パークシネマフェスティバル」)上映会場の雰囲気に合わせたて出店したキッチンカー(「新宿パークシネマフェスティバル」)

これまで区内の教育に長く関わってこられた経験を持つ高橋さんは「新宿の区立学校には外国にルーツを持つお子さんが多く、母語も尊重し、大切にしながら日本語学習を進めるなど、区も支援に非常に力を入れています。子どもたちは分け隔てなく友達になりますし、互いに接する中で海外の言葉や文化の違いなどを知っていくような機会に、これまで多く出会ってきました。そうした多様性は新宿の街が持つ魅力の一つだと実感していますし、イベントを通して伝えていけたらと思います」と話す。

映画を観ながら、出店するキッチンカーの食事も楽しめるテーブル席。ほかに、ピクニックやフェスのように自由なスタイルを楽しめるようレジャーシートも用意した(「新宿パークシネマフェスティバル」)映画を観ながら、出店するキッチンカーの食事も楽しめるテーブル席。ほかに、ピクニックやフェスのように自由なスタイルを楽しめるようレジャーシートも用意した(「新宿パークシネマフェスティバル」)

「昨年は残念ながら中止になりましたが、今後も定番イベントとして続けていきたいと考えています。映画上映を行ってきた水の広場は昨年リニューアルし、芝生広場眺望のもりもきれいに整備されたので、今後は公園の新しいエリアとの連携も視野に入れ、公園の魅力を一層発信できるようなイベントとして展開していけたらと思っています。公園では折々にさまざまなイベントが行われています。まだ公園を知らない方にもぜひ足を運んでいただき、多面的な新宿の街の姿に触れてもらえたら」と今後に期待を込める。

高層ビルを背景に見る映画は、映画の作品世界と現実の街の風景がどこかオーバーラップするような、新宿ならではの鑑賞体験になるに違いない。イベントが開催された際には、ぜひ映画とともに、新宿中央公園や新宿の街そのものも味わっていただけたらと思う。

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