この春、歌舞伎町に全く新しいクラフトジン「Ne10(エヌイーテン)」がお目見えする。4月14日に開業する「東急歌舞伎町タワー」を手がける東急株式会社が、地域の人たちと一緒に「エンターテイメントシティ歌舞伎町」を盛り上げていこうと進めてきたプロジェクトだという。ジンの製造を手がけたThe Ethical Spirits&Co.(以下エシカル・スピリッツ)の小野力さん、歌舞伎町商店街振興組合の柴本新悟さん、東急株式会社の小野寺響平さんにお話を伺った。
編集部:
クラフトジンを作ろうという企画はどのようなアイディアから始まったのでしょうか?
小野寺さん:
飲食店やバーなどが多い歌舞伎町という土地柄、お酒を通して街に何か貢献できるような取り組みができないかと考えました。そこで地元ならではの素材として、江戸時代に新宿一帯で栽培され、近年は新宿の名産品として知られる「内藤とうがらし」を使って「歌舞伎町のお酒」を作ろうという企画が立ち上がりました。
歌舞伎町らしさを考えながら、それを味やラベルデザインにも反映していけたらと、柴本さんはじめ街の方々にご相談し、台東区蔵前にジンの蒸溜所を構えるエシカル・スピリッツさんに製造をお願いして一緒に進めていきました。
編集部:
ジンはさまざまな素材を使って作ることができるのですか?
小野さん:
ジンというのは元々定義の広いお酒で、多くはニュートラルスピリッツと呼ばれるアルコールをベースにしていますが、基本的にはどんなアルコールでも使うことができます。唯一条件としてジュニパーベリー(西洋ネズの実)を香りづけに使うということが決められていますが、最近はジンづくりも多様化が進んでいます。我々はそうした製品自体の柔軟性に着目すると同時に、日本酒造りの過程で大量の酒粕が廃棄されているという課題意識に対する解決策としてそこから何か新しいものができたらと、酒粕を原料としたクラフトジンづくりを始めました。ボタニカル(香りづけするもの)もさまざまな原料を使うことができます。余剰ビールをベーススピリッツにするとホップ感があったり、抽出後のコーヒーをボタニカルに使うと豆ごとの風味が楽しめたり、当社の「東京リバーサイド蒸溜所」でもいろいろなジンを手がけています。
編集部:
内藤とうがらしは使ってみていかがでしたか?
小野さん:
週に1回くらい試作や実験などをしてきている中で、とうがらし自体は香りが取れるとわかっていたので、お話を伺って可能性があると思いました。実際に青いとうがらしと赤いものをそれぞれ実験してみると、青い方がスパイシーさ、グリーン感が際立ち、面白いジンになるだろうと感じました。地元の方に愛してもらえるような製品作りを目指し、飲食店やバーでのご利用が多いと考え、「食」と合うことや、バーテンダーをはじめドリンクを作られる方が使いやすいジンになるよう、最終的に青いとうがらしに決定しました。内藤とうがらしとして販売する際には収穫後に選別をされていますが、今回は香りを取るのが目的なので無選別のものを使っています。
編集部:
製品を作っていく中で何か試行錯誤されたことはありましたか?
柴本さん:
ジンの原料に内藤とうがらしを使うということが東急さんのご提案のコンセプトの中にありましたし、最初にお話を聞いた時から大変面白いプロジェクトだと思って関わってきました。私は最初の試飲会で「いきなり正解に近いものが出来ている!」という印象を受けました。明らかに一般的なジンとは香りが違いましたし、飲んでみると甘みと旨味が特徴的で、他のものとは全く違う仕上がりに驚きました。これは良いものになるという手応えは、最初の試飲会から参加者皆が感じていたと思います。シンプルに炭酸で割っても、カクテルにしても特徴が損なわれることなく、非常においしくて、海外のお客さまにも歌舞伎町発のお酒として喜んでもらえると思います。
編集部:
「Ne10」という名前やラベルはどうように決められたのでしょうか?
小野さん:
初めは内藤とうがらしの香りが持つグリーン感や、歌舞伎町のイメージを伺う中で出て来たカオスといった言葉から発想したものもありましたが、10種類のボタニカルを使っていて、街を象徴するネオンの元素番号が10であることから、元素記号のNeと合わせて命名しました。ラベルは黒をベースに、角度によって色が変化して見えるオーロラ箔をあしらっていて、新宿の多様性や歌舞伎町にあるさまざまなネオンの輝き方を表現しました。
編集部:
街へ行く楽しみの一つになりそうですね。今後への期待をお聞かせください。
小野寺さん:
歌舞伎町にちなんだおいしいお酒が生まれたことを皆さんに知ってもらえるよう、まずは歌舞伎町にある店舗で販売していこうと地域の方と一緒に進めています。東急歌舞伎町タワー内の各施設でも提供を予定しています。
合わせてボトルの売り上げの一部を、歌舞伎町のエンターテインメントを推進する団体に寄付する仕組みを構築しました。お酒がたくさん消費される街でみなさんが楽しく飲めば飲むほど、これまで街が目指してきた「エンターテイメントシティ歌舞伎町」に近づいていけるような循環を築くことが、みなさんと一緒に進めてきたこのプロジェクトの肝だと思っています。商品が完成して終わりではなく、今後しっかり街への貢献につなげていこうという思いを今新たにしています。
柴本さん:
街の飲食店のみなさん、エシカル・スピリッツさん、東急さんという異業種が一体となって知恵を出し合い、街のアイコンになるようなものを作れたということが今回の大きな成果だったと思っています。お酒が街のハブになるというのは歌舞伎町らしいと感じています(笑)。名前もラベルもシンプルだからこそ、提供側がお客さんにお酒の説明をする中で自然とコミュニケーションも生まれると思います。「Ne10」を目指して遊びに来てくれるような、歌舞伎町に足を運ぶ一つのきっかけになっていくとうれしいです。
小野さん:
今回関わっていく中で歌舞伎町という街の新たな一面が見え、企業や街のみなさんが築き上げられてきたものへの思いも少しずつ知ることができ、自然と街への愛着も湧いてきました。将来的に新宿の他の特産物も加えてみるバッチ(1回ごとの蒸留)製造など、クラフトジンはさまざまな可能性を秘めているので、将来的に新宿の他の特産物も加えてみるバッチ(1回ごとの蒸留)製造など、「Ne10」自体も進化していけるのではないかと思っています。街を支えていけるような一つの新たな方法として今回のクラフトジンが出来上がったことはとてもうれしいですし、ここをスタートにこれからの街の発展につなげていければと思います。