西早稲田駅からほど近い場所にあるパンとコーヒー「馬場FLAT」（新宿区大久保3-10-1オレンジコート、TEL 03-6205-5443）は、一見すると地域密着型の街のパン屋。食パンのほかにメロンパン、クリームパン、クロワッサンから、バゲットなどのハード系まで常時50〜60種類が並ぶ。
2015年10月、元々30年来パン屋だった場所にオープンした同店。始まりは、先だってオープン（2015年4月）していたスペインバル「目黒FLAT」（品川区上大崎）にある。
「馬場FLAT」店内店を共同経営する矢吹通康さんと鈴木成明さんは、大学時代にバイト先の居酒屋で出会い、偶然にも同じ大学の先輩後輩で20年の付き合いになる仲。居酒屋をやりたいと思っていた矢吹さん、パンとの出会いは意外なところにあった。
「たまたま趣味で弾いていたギターを習おうと、探した先の教室で出会ったのが、今、代々木上原で大人気のパン屋『カタネベーカリー』（渋谷区西原）の片根大輔さんだった。一緒にギターを練習したり、デュオも組んだりした仲」と矢吹さんは振り返る。この縁がその後、居酒屋さんからパン屋さんへと、矢吹さんの夢実現の方向性をも変えていくことになるのだから不思議なものだ。
矢吹通康さんカタネベーカリーのキッチンで製造などを学んだ後、「『パンと+何か』をしたかった。パンという特色を生かしながら、気軽に来て飲んでつまめるような店を作りたい」と考えた。「目黒FLAT」では自身でパンを焼いていたが、「馬場FLAT」開店と合わせてパン職人中島勇さんが加わり、2017年にはバルダイニング「麻布FLAT」（港区六本木）もオープン。「馬場FLAT」で焼き上げ、目黒、麻布の両店へ配送するようになったパンは、たちまち話題になった。
「馬場FLAT」のパンに出会えるのはこの3店舗だけではない。代官山にある「HENRY’S BURGER」を始め、都内にあるハンバーガーショップ、ベルギービール専門店、コーヒースタンドやレストランなど現在20〜25店が、「馬場FLAT」の角食やバンズなどのパンを使っている。
「HENRY’S BURGERは、トップクラスとも評価されているような『炭火焼き肉なかはら』の和牛100%のパティを使って店を始めようとしていた。そんな時に、自分の妻がたまたま『なかはら』に食事に行ったことがきっかけで生まれたご縁。『馬場FLAT』は場所がわかりづらいこともあり、最初は思ったほど店にお客さんが来なかった。おいしいパンを作り続けていれば自然と広まると思ったので、じっくりやっていこうと思っていたところ、いただいたお話しから広がって。これまで工場で作られた冷凍のパンを仕入れていた飲食店さんには、うちのように『作ってお届けする』という手作りパン屋のニーズが実はけっこうあったようでした」と矢吹さん。
100%国産小麦、契約農家直送の卵や北海道の乳製品など素材にこだわり、手作り感のあるパンは、口コミで広がり、卸売りを求める店が増えた。「最初は飲食店舗さんの細かなオーダーもすべて受けていて本当に大変だった（笑）卸売りは自分たちが失敗すれば先方の売り上げも立たないので、本当に気を使うところ。何が出来て何が出来ないかきちんとお話しできるように、店では日々トライ＆エラーを重ねてきた。こんな中で積み上げてきているスタッフ間のコミュニケーションの成果も出てきている」と矢吹さん。
店を始めてうれしかったことは「仲間が増えたこと」と即答する。「鈴木と中島と数人で始めた店だけど、今年の新年会には40人くらい集まった。『この商品はFLATっぽい』なんて、なかなか言葉では説明できないけれど、その『FLATっぽさ』みたいのがオープンから2年経って、肌感覚として共有出来てきたんじゃないかと思う」とも。
一番のお薦めは食パン。「すごくモチモチして、しっとりしている。食べていただいたら絶対おいしいと言ってもらえる自信作」と矢吹さん。ミシュラン一つ星にも選ばれた焼き鳥屋「鳥しき」が「究極に柔らかくしっとりしている」と新宿の百貨店催事に出店した際、伊達鶏を使ったメンチカツサンドに選んだ食パンだ。
人気の角食1斤350円それでも矢吹さんは「片根さんのようなパン職人を近くで見ているので、まだまだできていないことのほうが多いと思っている。うちはまだまだです」と笑う。
今や首都圏での影響力も大きいパン屋でありながら「地域の人たちにずっと長く使ってもらえるような店でありたい」という、新宿エリアで誇るべきパン屋「馬場FLAT」。店頭では、毎日そんなパンがセットになったワンコインのランチも提供している。人と人の縁から育つパンの店、ぜひ一度足を運んでみては。
営業時間8時30分〜19時。第2月曜定休。
関連リンク
「馬場FLAT」http://babaflat.com/
