歌舞伎町の街とつながる、天空とつながる
東急歌舞伎町タワーに誕生する、新しい2つのホテル

2023.03.23

眼下に歌舞伎町が広がる「東急歌舞伎町タワー」の上層階に519日、これまでにないような新しいスタイルを目指したホテルが2つ誕生するとあって、国内外から注目を集めている。ホテルに滞在しながら同じ建物内にある映画館、劇場、ライブホールなどで行われるエンターテインメントを楽しめるのはもちろん、街の熱気を近くに感じながら部屋でくつろいだり、最高の眺望の中、レストランで食事をしたりバーでの一杯を楽しんだりすることもできる。
18階から38階に展開する「HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」、そして39階から47階の「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」、2つのホテルブランドについて、総支配人を務める東急ホテルズの西川克志さん、ホテルの開発に携わってきた東急株式会社 河添麻以さんにお話を伺った。

編集部:
歌舞伎町という場所、そしてエンターテインメント施設と同じ建物内に誕生するホテルとして関心が高まっていますが、いかがですか?

西川さん:
実は私は1996年に福岡県のキャナルシティ博多内に開業した「グランドハイアット福岡」の立ち上げに関わりました。キャナルシティ博多はやはり繁華街に隣接していて、劇場や映画館、オフィス、ホテルはほかにも福岡ワシントンホテルがあり、そうしたさまざまな施設の人たちと連携しながら仕事をしてきた経験があります。そういう意味では、それらが縦に積み上げられたような感じがして非常に面白いと思いました。加えて巨大なターミナル駅である新宿駅からも近く、歌舞伎町の街なかという立地です。海外のホテル勤務も長くありますが、インバウンドにも新宿は本当に人気のある街で、これからお客さまを迎えるのが楽しみでなりません。

河添さん:
世界的な旅行ガイドブックとして有名な「Lonely Planet」で、歌舞伎町は東京のトップ16の一つに取り上げられたこともあります。海外の旅行者の中には、宿泊したホテルでのゆったりとした時間を楽しみつつ、日中や夜はダウンタウンで遊びたいという方も多くいて、西新宿エリアにはホテルが多数ありますが、歌舞伎町やゴールデン街、新宿二丁目といったエリアまでは少し距離がありました。歌舞伎町の中にラグジュアリーなホテルがあって、遊びに行きたい時にふらっと街へ出かけたり、すぐに戻ってきたりできる立地の魅力は大きいと思いながら開発をしてきました。

編集部:
HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」はどのようなコンセプトのホテルですか?

河添さん:
歌舞伎町にはビジネスホテルはたくさんありますが、その街や風土にフォーカスしたコンセプトを持ち、宿泊以外の付加価値も体験できるようなライフスタイル型のホテルはありませんでした。そこで新宿、歌舞伎町の歴史や文化、記憶を体験できるようなホテル作りを目指しました。「歌舞伎町」をコンセプトにとなると、ネオン・賑やか・混沌という方向に行きがちなのですが、それは、目の前のリアルな歌舞伎町の街で十分体験できる。このホテルは、日中、そしてナイトタイムにリアルな街を遊びつくし、帰ってきた後にその余韻に浸れることが大事だと考え、デザイナーにはそうした想いを伝えて内装デザインをお願いしました。

編集部:
さらに上層階に展開される「BELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel」はいかがですか?

河添さん:
こちらはもう少しラグジュアリーで、粋や技、間といった日本が持つ文化や伝統が感じられるホテルです。東急の創業者といわれる五島慶太氏は美術品など芸術にも造詣が深く、その長男である五島昇氏はリゾートの一等地にこだわり、ホテルづくりを全国展開してきました。当時は地方のリゾート地こそ一等地でしたが、もし現代に昇氏がいたら、都市型文化体験ができる「都市型リゾートホテル」に注目したのではないか?もし歌舞伎町にそんな都市型リゾートを造ったらどのようなホテルになるだろうか?そんなことを関係者で議論しながら、時には妄想しながら進めてきました。
障子や和紙、白木を使い日本らしさを表現するのは、歌舞伎町という街での都市型リゾートホテルに相応しくないと考え、日本の古い色「藍鼠色」の左官壁や、陰影礼賛の世界を感じる深い茶色の床材や木扉など、使う色や木材などをこだわりぬき、デザインのベースとし、その中に審美眼を持ったオーナーが一つずつ好きなもの、愛したもの、伝えたいものを選ぶように、日本の匠の技術で作り上げられた家具や照明、アート作品を散りばめていきました。
滞在中にホテルで目にした建築やアート、出会った食などから湧いた興味をきっかけに日本の各地へ出かけていくような、そんなホテルにもなればと思っています。
4547階には、空に溶け込んでいくような天空の世界が広がる5室のペントハウス、日本各地の大地の恵みと四季を体感できるスパ、3層吹き抜けの圧倒的な眺めのレストランをはじめとする食空間があります。ペントハウスは「天空のプライベートヴィラ」というコンセプトで、海外からいらしたお客さまに日本の別邸のような感じで滞在してもらいたいと考え、住宅の設計も多く手がける建築家の芦沢啓治さんに内装設計をお願いしました。日本の「間」を大事にした、住宅らしい居心地の良さを感じられる、まさに「プライベートヴィラ」のようなホテルになりました。

編集部:
コンセプトが違うホテルが同じ建物にあるのは珍しいのではないでしょうか?

西川さん:
近いエリアにこうしたさまざまなタイプのホテルが建っていることはあっても、同じ事業者の下、一つの建物内に揃っているというのは国内外問わず、なかなかない形だと思います。さまざまなマーケットをカバーできるのは良いですし、オペレーションのしがいがあって、開業前からワクワク感が高まっています。
図面だけではわからない部分もありましたが、実際に見られるようになってホテルに入ってみると景色もすばらしいし、多くのお客様に気に入っていただけると確信しました。すばらしいハードをいただいたのでそこに血を通わせるべく、より良いサービスの提供に努めていきたいと思っています。

編集部:
ホテルづくりを進める上で難しかったのはどんなことですか?

河添さん:
新しいホテルブランドを同時に2つ創ったことです。しかも、新しい2つのブランドが同じ建物に同居しているという、おそらく世界初の挑戦でしたので、海外、国内のさまざまホテルを研究し、比較しながら進めてきました。ターゲットや企画、コンセプト、デザインが互いに差別化できているか、それぞれのブランドが全く違うものになっているか、そこに一番気を使って検討してきた一方で、2ブランドが同居しているからこそハード計画やサービスを合理化することも意識しました。同居する2つのブランドの互いのバランスを考えながら創っていくことは非常に大変で、全然違うプロジェクトを同時に2つ抱えている方がきっと楽だったのではないかと思います(笑)。

西川さん:
メガホテルチェーンといわれるブランドもさまざまなホテルをグループ内に展開していて、溢れるほどホテルがある時代ですが、ブランドイメージを生かすも殺すも中で働く人間次第だと思います。
ラグジュアリーなホテルのサービスを提供するためには、やはりそうしたホテルでの経験がなければ務まりません。スタッフの教育も含め、お客さまが求めていることをそれぞれに見極め、到着されてから気持ちよく過ごしてもらえるようなサービスを、時に臨機応変にいかに提供していけるかということが我々の仕事です。40年近くホテル業界で働いてきましたが、やはり良いサービスを提供してお客さまから「よかったよ、ありがとう」と言葉をいだくことが、働いていて一番の醍醐味です。

編集部:
街とのつながりも、今回大事にされた部分だと伺いました。

河添さん:
建物の下層階に広がるエンターテインメント施設と、上層階にあるホテルのちょうど結節点になるような17階には、レストランやバー、テラス、パーティールームなどからなる「JAM17 DINING& BAR」がオープンします。歌舞伎町にはオープンエアなスペースがなかなかないこともあって、地上からは少し高い場所になりますが、外の街の空気を感じられるこのフロアが、街とホテルとエンターテインメント施設をつなぐ「まちの社交場」のような空間になればと考えました。歌舞伎町が今まで紡いできた文化的な活動を引き継いで発信したり、そこから新しいカルチャーが生まれたりしていくことで「あそこに行けば何か面白いことがあるだろう」と宿泊者だけでなく、地元の方や街に遊びにきた方たちが集まれるような場所を目指しています。

西川さん:
17階のバーに導入する西野達氏のアート作品を先日ちょうど見に行きましたが、ユニークで初めていらした方はきっとびっくりすると思います。45階にはホテルのメインダイニングとなるフレンチレストラン、お寿司、鉄板焼き、バーがあり、そこにも大巻伸嗣氏のアート作品が展示されますので、新宿の絶景の中で食事やお酒と共にそうした作品にも触れ楽しんでもらえたらと思います。

「JAM17 DINING& BAR」イメージ

編集部:
エンターテインメント施設との連携もホテルの魅力の一つになりそうですね。

河添さん:
428日から「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」という劇場をはじめとする施設とホテルのコラボレーションプランも始まります。ホテルでは「エヴァンゲリオン」ファンのために、客室1フロアを期間限定でジャックし、5人のパイロットをイメージしたコラボレーションルームに宿泊できるプランを展開します。限定のグッズやコラボメニュー、お部屋で楽しんでもらえるスペシャルムービーなど、たっぷりと世界観に浸ってもらえるのは、複合施設ならではだと感じます。
建物の外に出なくてもエレベーター1本でホテルとエンターテインメント施設を行ったり来たりすることができますので、ホテルに宿泊するお客さまのために劇場やライブホールを貸し切って何かイベントを行ったり、演者の方たちが公演に出演した後、そのままVIP用エレベーターで移動して宿泊したりパーティーをしたり、さまざまな楽しみ方を提供できると思います。

西川さん:
歌舞伎町界隈をはじめ、少人数であれば例えば相撲部屋を見学してちゃんこを食べに行くなどホテル発のツアーのアレンジも考えています。お客さまが必要とする情報、安心安全なアクティビティーを提供できるよう各方面と提携しながらいろいろなことに挑戦していきたいと思います。

編集部:
開業に向けて抱負をお聞かせください。

西川さん:
私が九州から上京したあの当時も、新宿はすでに東京の中でも先端をいっているような感じがして、その空気は今も変わらないと思います。学生時代の約2年間コマ劇場内の施設でアルバイトをしていて、「東急歌舞伎町タワー」周辺は非常に馴染みのある場所でしたので、私の仕事は歌舞伎町で私の仕事が始まり歌舞伎町で終わるのかなと思うと、非常に感慨深いものがあります。この年代になると最後に楽しいホテルで働きたいという思いもあり、このプロジェクトの一員になりました。
海外の人たちにとって日本はホスピタリティーにあふれていて親切ですし、食べ物もおいしい。そんな日本のいろいろな良さが街の魅力となって発信されているのだと思います。歌舞伎町も安全でワクワク感に満ちた街のように捉えていると思います。
この建物ができることで街の人流も変わってくると思います。ちょっと雑多な歌舞伎町ならではの雰囲気と、新しくできる建物が良い感じにミックスされると、一層面白い街になると思います。我々働く方も楽しみです。

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