4月14日に開業する「東急歌舞伎町タワー」。今回は、ホテルとエンターテインメント施設などからなるこの超高層複合施設の6階に開業する劇場「THEATER MILANO-Za」を紹介したい。
新宿ミラノ座といえば1956(昭和31)年、この地に開業した新宿東急文化会館(後の新宿TOKYU MILANO)が有した、当時国内最大規模の映画館の名前が思い出されるのではないだろうか。長きにわたり新宿ミラノ座は、同じく館内にあったスケートリンクやミラノボウルと共に建物の顔であり、歌舞伎町のシンボルとして親しまれてきた。
そんな新宿ミラノ座の名前を、かつての建物が持つDNAと共に引き継ぐべく名付けられた新しい劇場「THEATER MILANO-Za」は、東急歌舞伎町タワーの中では一番大きな施設となる。開発に関わった株式会社TSTエンタテイメント運営事業本部長の萩原要さん、運営事業本部 劇場運営部部長の枝村義夫さん、マネージャーの松井司さんにお話を伺った。
編集部:
東急新宿文化会館にはなかった劇場が新たにできることになりました。
枝村さん:
エンターテインメントとして思い浮かべられるような映画、音楽、舞台がすべて建物内で楽しめるようにと考えました。歌舞伎町は、昔は新宿コマ劇場をはじめシアターアプルなど劇場がたくさんあった場所でしたから、そうした街の劇場文化を継承していきたいという思いもありました。
萩原さん:
私のTSTへの出向元であるソニー・ミュージックエンタテインメントとしては、パルコさんなどと共同事業体として「ブルーマン」の専用劇場「Zeppブルーシアター六本木」の運営を数年手がけたことがあります。2.5次元ミュージカルをはじめ舞台を観に行く新しい客層が増えてきたこともあり、“劇場”というべニューを持ちたいと考えていた中で、今回の劇場づくりのお話をいただきました。
編集部:
劇場を作るにあたってどうコンセプトを考えられたのでしょうか?
松井さん:
演劇だけでなく音楽や映像などさまざまなもの、ジャンルの垣根を超えた新しいエンターテインメントをこの劇場から発信できないかというところから考え始めました。東急が手がける渋谷のBunkamuraシアターコクーンはストレートプレイを中心
両社が一緒に企画を進めるからこそ、それらをうまく融合できれば、何か「THEATER MILANO-Za」らしい劇場を作ることができるのではないかと考えました。
どんなものでも上演するということは、ともすると劇場としての意思があまり感じられなくなるのではないかという課題もあり、自分たちの意思をどのように込めて、型にとらわれない新しい劇場づくりを目指すか。そこが一番難しい部分でしたし、議論を重ねたところです。
編集部:
劇場空間としてはどのような特徴がありますか?
枝村さん:
演じる側と観る側が同じ情熱を互いに共有できる、同じ感覚で盛り上がれるような両者の一体感を非常に重要視しました。その実現に向けて考えたのは舞台から客席の一番後ろまでの距離をできるだけコンパクトにすることです。最終的には座席のレイアウト、配置などをうまく設計することで18.9mになりました。例えば一般的な公共ホールでは、同じようなキャパシティでも舞台からの距離が30m近くあるところもあります。
施設全体は3層になっていて1階席が約600席、2階と3階にそれぞれ約150席あります。2階席に上がると舞台との距離が離れる劇場もありますが、ここは2階席でも舞台が非常に近く感じられる設計になっています。
演者の吐息を観客側も感じられるような距離感、一体感といったものをお客さまに感動としてぜひ持ち帰っていただけたらと思います。音響設計に関しても演劇や音楽、映画や映像コンテンツまで、どのような演目でも対応できるように設計してもらっています。
萩原さん:
照明もこだわった部分です。演目の世界観に没入できるよう、ハード的にどんな工夫ができるかを考えて、最初は設計になかったのですが劇場内の壁などに色調を変えられるLEDの間接照明を入れ、場内に足を踏み入れた時から作品世界を味わっていただけるようにしました。ロビーまわりも同様の照明を入れているので、演目に合わせて演出ができるようになっています。
編集部:
総客席数は約900席ですが、1階の客席はレイアウトが変更できると伺いました。
枝村さん:
1階席は1席単位で全て取り外せるようになっています。演目によってそれほど大きな舞台が必要ない場合は、1階席の席数を約600席から約750席まで増やすことが可能なので、2階席と3階席を合わせて1000席を超えるようなキャパシティにも対応できます。
萩原さん:
一般的なライブの場合、お芝居ほどセットを組んだりセットチェンジをしたりすることなく、奥行きをそれほど必要としないので、その分客席を増やせることは主催者の方には喜んでいただけると思います。
松井さん:
座席を外して仮設花道を作ったり、ランウェイのように会場を設営したりすることもできます。創り手のイマジネーションに応えられるような劇場であって欲しいと思っています。
編集部:
同じ建物内にあるホテルとの連携で、劇場としても新しい挑戦ができそうですね。
萩原さん:
音楽公演に関していえば1日〜2日、長くても3日間くらいのライブが多いと思いますが、この劇場では最低でも1週間、将来的には数ヶ月の公演を考えています。歌舞伎町でもその昔、演目的には演歌でしたが新宿コマ劇場でロングラン公演が行われていました。国内ではそうした公演を行っている劇場が今ないと思うので、上層階にあるホテルと連携して宿泊とのセットプランを提供したりしつつ、規模感は違いますがラスベガスで行われているような、宿泊しながら楽しめるエンターテインメントプランができればと思っています。
また1デイ、2デイのライブであっても、例えばロックバンドのボーカリストが、この劇場ではあえてアコースティックライブをするといったような、他の会場では見られないスペシャルな演目ができるような劇場を目指していきたいと思っています。
枝村さん:
ホテルなど建物内だけではなく屋外ビジョン、屋外ステージ、そして隣接する歌舞伎町シネシティ広場も含めて、例えば映画のジャパンプレミアムのようなイベントなどの際、広場にレッドカーペットを敷き、約900席という劇場の広さを活かして劇場で舞台挨拶をしたり、役者の方に来ていただいてお客さまと一緒に完成披露試写会を行ったりするような活用もできると思っています。また、「舞台を飛び出して建物内や広場を練り歩いたり、街のあちこちに登場したり、そんな演出もできるね」というような演劇関係者のお声も聞いています。街に人を呼ぶような起爆剤になること、それも劇場づくりの目的の一つですので具現化していけたらいいなと思います。
編集部:
開業に向けて抱負をお聞かせください。
枝村さん:
劇場だけではなく、映画館があってライブホールがあって、さらにホテルがあるという複合ビルなので、ほかの用途とどううまく組み合わせることができるのか、それが建物の価値となり、劇場はじめ各施設それぞれの価値をもさらに高めることになると思います。演目のブッキングの観点からみると、どうしても劇場が一番早い時期に公演内容が決まりますので、そういう意味では我々がリード役となって建物全体のコラボレーションを含めひっぱっていけたらと思います。
最初のコラボ企画「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」が始まりますが、もともとエヴァンゲリオンを好きな人が、初めて舞台を観てみようと足を運び、「生のエンターテインメントってこんなにすごいんだ」と感じて次の他の公演も観てみようと思ってくれたらうれしいですし、舞台が好きな人が初めて「エヴァンゲリオン」の世界観に触れることで、そこから広がって映画を観に行ったり、東急歌舞伎町タワーで新しい「好き」を発見し、それを深めたり極めたりしてもらえたらと思います。
萩原さん:
このプロジェクトに関わる前は、しばらく歌舞伎町に来ていなかったのですが、エンタメ業界に入って仕事を始めた80年代、90年代は「ライブを観に行く」といえば新宿のイメージがありましたし、お芝居も盛んだった印象があります。
いつのまにか施設が減り、街にエンタメ感がなくなってきて足が遠のいていたのかもしれませんが、東急歌舞伎町タワーができることでこの街は再びエンターテインメントシティになっていくのではないでしょうか。アニメやアイドル系をはじめ、歌舞伎町だからこそ考えられる魅力的なコンテンツなど、当時とは違ったまた新しい、もっと幅広いアクティブなエンタメの街になるポテンシャルが十分にあると感じています。
ここ数年ソニー・ミュジックエンタテインメントはソニーとの連携もより強くなっていますので、脚本的、テーマ的に新しいというだけでなく、ソニーならではの最新技術のデバイスも使えるような、常に新しいチャレンジをしていける劇場になればと思っています。
松井さん:
約900席という劇場ですが、将来的には2000席、3000席の会場で公演を行うようなアーティストの方が「それでもここでやりたい」と思ってくれるような劇場になれたらと思いますし、逆に100席、500席といった劇場で公演を行うアーティストや劇団の方々が「いつかはここで」と目指すような場所になってくれるとありがたいと思います。
枝村さん:
劇場としては、当面は貸し館的な営業形態が中心になりますが、将来的には自主企画も含め、自分たちで作りあげていったものを日本中、世界中に発信できたらと思っています。建物内のエンターテインメント施設、ホテルが互いに連携し、さらには街とつながりあう建物だからこそ、それが可能になるのではないかなと期待しています。