歌舞伎町のど真ん中で、世界一謎があるテーマパーク
「東京ミステリーサーカス」を展開
株式会社SCRAP 取締役 飯田仁一郎さん
インタビュー

2018.11.23

歌舞伎町のシネシティ広場を取り囲むビルの一つ、その地下1階〜4階に広がる「東京ミステリーサーカス」は、「リアル脱出ゲーム」が体験できる世界初、国内最大級のエンターテインメント施設として2017年12月に設立された。

閉ざされた空間から謎解きをしながら脱出する「脱出ゲーム」は、もともとパソコンや携帯などで人気のゲームコンテンツとして存在していた。そのゲームコンテンツを現実の体験型アトラクションとして開発したのが株式会社SCRAPだ。「東京ミステリーサーカス」は、株式会社SCRAPが提供する、実際に脱出したり、暗号を解いたり、推理したり探索したり、物語の中に入り込んで体感できるような「リアル」なコンテンツ集合型体験アトラクション施設である。

運営する株式会社SCRAPは、京都でフリーペーパー「SCRAP」(2004年創刊〜2012年休止)を発行するとても小さなチームから始まったという。代表を務める加藤隆生さんと、今回お話を伺った取締役の飯田仁一郎さんはともに現在もバンド活動を続けるミュージシャンである。今のSCRAPにつながる二人の出会いは2002年に始まった音楽フェスだったという。

同フリーペーパーの特集コンテンツの一つだった「謎解き」を、「物語の中に入って実際に体験できたらもっと楽しくなる」と考え、加藤さんは「リアル脱出ゲーム」を企画した。そして、2007年に京都で初開催するとあっという間に人気が出たという。
株式会社としてSCRAPを設立したのが2008年。ちょうど10周年を迎えたSCRAP本社で、飯田さんに「東京ミステリーサーカス」について伺った。

京都で開催した最初のリアル脱出ゲームに、当時のバンドメンバーと東京から一緒に遊びに行きました。音楽にしか夢中じゃないような仲間がとても楽しそうに遊んでいるのを見て「このリアル脱出ゲームはすごく可能性がある、誰もが楽しめるゲーム。京都だけじゃなく東京でも絶対に流行る」と直感しました。

「東京ミステリーサーカス」という常設の施設を作ろうと考えられたのはどういうきっかけだったのでしょうか?

最初はライブハウスや倉庫、学校などを借りてイベントとして行っていて、施設を作ることに関しては、当時は何もビジョンがありませんでした。バンドマンの僕らは、音楽の理論で物事を大きくしていくのは得意だったんです。プロデューサーの立場だった僕は、ミュージシャンがどんどん大きな場所でライブをやるように、リアル脱出ゲームも次々と大きな会場でイベントを仕掛けていきながら、ついには東京ドーム開催までたどり着きました。それはとても感慨深いことでした。

そこまでいくと、もうそれ以上イベントができる大きな場所はないんですよ。それで「次は何をしよう」、と考えて生まれたのが常設の施設を作ることでした。非常に雰囲気のある施設との縁もあり、原宿に100人規模の常設型のスペース「原宿ヒミツキチオブスクラップ」を構えました。

「東京ミステリーサーカス」の出店場所として「新宿」を選ばれたのはどんなきっかけがあったのでしょうか?

僕らみんなの夢として「ディズニーランド」や「ユニバーサルスタジオジャパン」といったような、僕らのゲームを発展させたリアル体験型のテーマパークというようなものを作ってみたいという気持ちが、ずっとありまして。大きく存在するその夢に近づいていくためにはどうしたらいいかと考える中で、まず「都市型のエンターテインメント施設を作ろう」と企画しました。そして、ではどこでやりたいかとリサーチや研究を進める中で出た案が「新宿」という場所でした。

音楽活動を通して僕らも歌舞伎町にはよく行っていました。上京した10年前はコマビルがちょうど工事をしている時で、まだまだ独特の怪しい雰囲気が残る強烈な印象の街でした。当時のあの雰囲気のままの街であれば僕らの施設を作りたいとは思わなかったかもしれません(笑)

衝撃的だったのは「新宿東宝ビル」、あのゴジラビルの登場です。この施設ができた瞬間、「なんだこれは!」と、もう急激に周囲の色も匂いも変わったのを肌で感じました。歌舞伎町に若い子もたくさん遊びに来るようになって、ここはすごく面白いと感じました。

代表の加藤も僕も元々がポップというか、エンターテインメントとか風俗、ショッピングセンターや子供連れの人たち、そういったものがぐちゃぐちゃとあるカオスな感じが好きで、新宿の街にもそうしたカオスを感じていました。しかし、カオスのままでは僕らの目指すエンターテインメント施設を置く場所ではない、と思っていました。僕らのお客さまは、若い人から家族までです。ただ怪しい街では踏み込めない。それが急激に変わり始め、これから「面白くなりそう」だと思っていたら、さらにミラノビル(新宿TOKYU MILANOビル)が解体され、その跡地に最新のVR施設ができ、他社の謎解き施設やスパイ体験アトラクション施設などといった、僕らの目指す施設に近い属性のものもたくさん建ち始めました。

いよいよ「完全に人通りが変わってきた。きっと日本で一番面白い場所になる」と直感的に感じて、新宿出店の運びになりました。当初は、かつての歌舞伎町のイメージから、「SCRAPのお客さん来ますか?」、といった出資者の方々からの不安の声もありましたが、「新宿に可能性があると思います」と、出資者の方々を説得して出店が決定しました。

「東京ミステリーサーカス」にはどのような客層の方が遊びにこられていますか?

原宿、渋谷を始め全国約20施設のほか、いろいろとイベントを開催していますが、「東京ミステリーサーカス」の客層が一番若いですね。それは非常に嬉しいですね。

もともと「脱出ゲーム」のターゲット層は20〜30代前半が多かったのですが、SCRAPのメイン客層は25~35歳くらいなんです。最初に施設を考えた時には、原宿のような、若い層が多く遊びに来る街に打ち出したかったんですね。ということで、東京では原宿が初出店の場になりましたが、その原宿も思った以上にもともとうちが強い25〜35歳くらいのファンの方が多く来てくださいました。新宿は、うちが強い年齢層をいい意味で拡大してさらに若い層にも来ていただいている。それがとても嬉しいです。

「東京ミステリーサーカス」の魅力作りは、まず料金設定をリーズナブル、かつ長短とプレイ時間を選んで遊べるように工夫していることです。前売りで3000円くらいのチケットを予約して遊びに行くほかの施設に比べると、800円で遊べるものや、時間も1時間、3時間などいろいろなコースのアトラクションを用意しているので、行きたいと思った時にすぐ行って、遊びたい時間だけ、気軽に遊べるんですよね。「東京ミステリーサーカス」は、「いつでもこられるテーマパーク」がコンセプトなんです。東宝に映画を観に来た人や、ちょっと話題だから行ってみようと立ち寄ってくださる若い方も多いので、まさにうまい使い方をしてくださっているな、と思います。ストーリーだけでなく、脱出の仕方も面白く、最高傑作と僕らも自画自賛している「シン・ゴジラからの脱出」などはとても人気でした。土日で1日2000人、平日は約500〜600人、月間1万人以上の来場者があることになります。

歌舞伎町の街を実際に歩きながら謎を解く「歌舞伎町探偵セブン」などのコンテンツも誕生しました。施設から街なかへとリアルゲームが拡張していますね。

日々、僕らの中で新しいことを思いついてどんどんやりたいことが出てきます。全5フロアの施設を作ったとはいえそれでも限界があり、新しいアイディアを実現するためにはどうしたらいいかと考えた時、「街全体を使えば、自分たちのゲームをより多くの人に体験してもらえるのでは?」と思いついたのです。街が少しづつ新しく変わってきても、なお残っている歌舞伎町らしい街の雰囲気も取り入れて面白い遊びができないかと考えている中で、「捜査」や「探偵」というキーワードが思い浮かびました。

既存の店舗などもアトラクションの行程に入れ込み、その店舗に潜入しに行くというものもありますが、それはどのように実現されたのでしょうか?

実際に我々がお借りした店舗が5〜6軒あります。提携して一緒に盛り上げていきましょうと、手塚マキさん(歌舞伎町でホストクラブや飲食店など10数軒を手掛ける「Smappa! Group」の会長。本サイト「PICK UP THE KEYMAN」コラム参照)にご紹介いただいて、実際のキャバクラ店舗やホストクラブ店舗の営業時間外の空いている時間や、入り口だけ使わせてもらうお願いをしたりして実現しているものもあります。

新宿歌舞伎町ならではの物語が体感できるわけですね。みなさんからの反響はいかがでしょうか?

「普段体験できない場所に行ける、そのドキドキが最高でした」という声が一番多く、ご好評いただいております。リアルであればあるほどいいので、こうした実際の店舗や場所を使えることはゲーム体験をより印象深いものにできることが大きいです。アトラクション参加者が実際の街に繰り出すのでトラブルが心配でしたが、参加者は街の中をゲーム専用のファイルを持って動くので、街の方々にもゲーム参加者だという見分けもつき、結果トラブルもなく、かえって街の方々からも遊びに来る人が増えて嬉しいという声をいただいております。

ここ最近の新宿の街の移り変わりはどんな風に感じられていますか?

正直にいうと新宿の街そのものの変化以上に、とにかく観光客含め、外国人の方々が増えたことが強い印象です。僕らとしても、こうした層をどうお客さまとして取り込むかということばかり考えています。外国人の方向けのコンテンツもあるのですが、もっと根本的なこと、例えば彼らが旅行計画を立てる段階で「東京ミステリーサーカス」が目的地に組み込まれるような、そういった施策が必要かもしれないな、と思っています。そこはこれからの課題です。

海外でも「リアル脱出ゲーム」は流行っているのですか?

はい。一昨年のデータだと開催している会社は4,000社くらいあります。もともと日本と、どうやらヨーロッパでも同じようなゲームが同時期に出てきて、それぞれ独自の発展を遂げていきました。
世界全体で見るとリアル脱出ゲームのほぼ95%がルーム型といわれるもので、2〜3個の部屋を使い、参加する6〜10人みんなで脱出するというゲームスタイルです。
逆に、日本はパズリック(練習問題のようなものがストーリーの中で10個、20個と組み合わされて、それを解き、最後に大謎を解くとクリアとなる)なものが一番人気と言われています。

僕たちが施設や遊園地、ドームなどで提供しているスタイルはSCRAP独自とも言えるスタイルです。ルーム型というのは、小さい施設で参加人数も少ない為、ビジネスの構造が非常に小さいんですね。会社として何十人もの従業員を抱えて展開するとなると、SCRAPは100人、1000人で遊べる形のものを作らないといけなかったのです。
新宿という立地で施設を維持するためには、潜入ゲームや街を使ったコンテンツなど、現在提供しているルーム型でない新しい「SCRAP型」での運営が必須でした。
世界中にフランチャイズでルーム型を手掛けている人たちもいますが、SCRAPはフランチャイズが苦手でほとんど直接運営しています。そういったことからまた、SCRAPのゲーム・アトラクションは独自の発展を遂げているのかもしれません。

SCRAP独自のコンテンツの作られ方や、制作のご苦労はどういうものでしょうか?

「迷路」や「歌舞伎町という街」「プロジェクションマッピング」といった何らかの条件が脱出ゲームのテーマに一つ入ることで、そこからどんなゲームできるか話し合い、基本的には10人くらいの担当チームで制作します。60分なら60分間、どう飽きさせずに物語に巻き込み、楽しんでもらうかというところが勝負だと思っています。海外だとトンネルをくぐったり橋が落ちたりして、感情の抑揚をつける手法がよくあります。しかし、なかなか施工にお金がかけられないこともありますし、ポイントは脱出ゲームですので、物語の方が複雑すぎてもお客様がついてこられませんし、そのバランスというのは非常に難しいところで。パズルが複雑に繋がり、その組み合わせで物語が進み、最後の大きな謎で人がどう感動できるか、その物語と謎の組み合わせが一番のポイントで、そこが一番難しいところだと思っています。

あと、日本人にとっては「ちゃんとすっきりするかどうか」も大事です(笑) 海外に行くとスッキリしないゲームも多いんですよ。日本のお客様には、謎解きにおいては前後が繋がっていなかったり、別の解き方が存在していたり、曖昧なものは通用しないですね。納得していただけません。

この先の未来、何を目指していかれますか?

海外戦略でいえば「東京ミステリーサーカス」を輸出する可能性がかなりあると思っています。世界では現在ルーム型のリアル脱出ゲームがとても流行って、市場として成熟してきています。海外にも「日本にはこんな面白いリアル脱出ゲームのスペースがあるのだから、やってみたほうがいいんじゃない」という提案はしやすいタイミングになってきていると思いますので、僕らのアトラクション施設や、考え方そのものを輸出する、そういった方向性は考えています。
そして昨年(2017年)、「リアル脱出ゲーム」は10周年を迎えたので、より新しい遊びを生んでいくというのが僕らの至上命題ですね。

SCRAPがこの先50年続くとして例えてみると、第一世代がリアル脱出ゲーム、今は潜入ゲームなどに発展した第二世代の時期だと思います。永く続けるからこそ、新しいものを生み出し、第3、第4と、次のフェーズに進んでいかなければと考えています。
外国人の方々向け、子供やファミリー層が楽しめるような遊びなど、まだまだ開発の余地があると思います。「テーマパーク」という夢は、今だに僕らみんなの頭の中にはありますし、もっともっと楽しい遊びを生み出していけたらと思います。

現在も音楽活動を続けられている飯田さん。音楽の歌詞やリズムによるのと同じように、人の感情を動かせるような表現の方法は「音楽もリアル脱出ゲームも、僕としては一緒といえば一緒のような気もします」と話してくださった。新宿から世界に発信する「リアル脱出ゲーム」と、その先の新たな遊びに注目していきたい。

 関連リンク 
「TOKYO MYSTERY CIRCUS」 https://mysterycircus.jp

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
歌舞伎町文化新聞編集部の略称アイコンです。

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