新宿・歌舞伎町×セレクトショップのインパクト 
「THE FOUR-EYED」オーナー藤田佳祐さん インタビュー

2019.11.21

 その店は歌舞伎町の奥、ラブホテルのエントランスになっている通路をくぐり抜けた瞬間、ほのかに光差す吹き抜けの下、突如として目の前に現れる。藤田佳祐さんが2016年9月にオープンした「THE FOUR-EYED(ザ フォーアイド)」だ。約30坪ある店内には国内外からセレクトした、他にはあまり見られないメンズ、レディースブランド、古着などが並ぶ。藤田さんに、歌舞伎町にセレクトショップをオープンしたきっかけと、新宿の街について伺った。

出身は京都だと伺いましたが、藤田さんと新宿の出会いは?

年に何度か仕事で来たり、遊びに来たりはしていましたが、27歳で上京した時に「新宿に住もう」と思いました。「新宿こそが東京のイメージ」というのが僕の中にありましたし、歴史も好きだったんです。江戸時代、人々が京都から東海道を歩いて江戸を目指した時、その江戸に最も近い宿が「新宿」という背景もあって、上京してきた僕にとっても最初の宿というか「ファーストステップは新宿だ!」と思って。家は決めていたんですが、移ったタイミングがまさに東日本大震災直後だったので、最寄りの大江戸線の駅のエレベーターも動いていないし、街の明かりも少ない中でのスタートでした。今では店も構えたし、変わらず新宿に住んでいます。

最初から店舗は新宿に出店しようと考えていたのですか?

商品のターゲットを考えれば、表参道や渋谷、原宿エリアに出店するのが妥当だとは思っていましたし、実際に物件も探していました。ただ、すでに東京でのオリンピック開催が決まっていた当時、渋谷はちょうど一気に開発が始まって、建て替えが多かったんですね。

僕は物件そのものがすごく好きで、立地だけでなく建物そのものも重視していました。古いからいいというわけではないけれど「骨太」な物件が好きで、ここも1960年代頃の建物です。バブル崩壊以降の建物ってどこか骨細で、すぐ建て替えられるような感じもしてあまり好きになれませんが、それこそ前回のオリンピック前後に建てられた物件は、天井が高かったり、若干西洋化を意識していたり、品質もいい建物が多くあります。そうした場所で腰を据えてスタートしたいという思いがありました。

そんな新宿の街を、藤田さんからファッションという視点で捉えると、どのように見えますか?

うーん難しいですね(笑)でも表現するなら「学校のよう」ですかね、私立じゃなくて公立の。渋谷とつい比較しがちになりますが、新宿はすごく平均的というか。いや、平均的ともちょっと違って、、、そう「全部いる」という感じです。
本当は人っていろいろなレイヤーを持っていると思うんですが、なんとなく同じ趣味や仕事など、年を追うごとにある程度自分と似たコミュニティに属していきますよね。高校生くらいからは、偏差値だったり自分の選択肢などが出て来たりして、少しずつ偏りが出てくるのだと思うんですが、小学校や中学校は、親の職業もいろいろあるし、大衆的というか、すごくフラットな状態だと僕は思います。その様子と新宿の街、街にいる人たちのバランスがよく似ていると思うんです。

たどり着くにも迷いそうな、一見不思議な場所にありますが、どのようにしてこの物件と巡り合われたのですか?

なかなかドラマチックな出会いでした。もちろんネットでも多数探しましたし、内見もたくさんしましたが、最終的には足で歩いて見つけました。

当時、いくつかターゲットにしていたエリアで「広さ」を基準に価格と合わせて探すと「歌舞伎町」の物件が意外にトップヒットに多く並んだんです。「歌舞伎町」って名前もかっこいいし、わずか一丁目と二丁目しかないコンパクトな街なのに日本全国に知られていて、何よりインパクトがある。これはいいんじゃないかと思い、的を絞っていきました。でも基本的に飲食店が入居するビルが多くて募集業種に当てはまらなかったり、ファッションの店をやりたいと説明してもちょっと怪しまれているようだったり、なかなかここという物件に出会えず、2ヶ月ほど予定していたオープン時期を過ぎていきました。

物件が決まらないことには何も進まないし、資金も決まっている中、焦りもあって、花園神社に神頼みに行ったすぐ直後だったんです、この物件と出会ったのは。「いい物件が出ますように」とお願いしたその帰り道、近くをウロウロしていて本当に偶然に、ボロボロの張り紙に目が止まりました。その紙にある目当ての場所を探し当てて、入口を通ってここに抜け出た時には感動しました。15年くらい空いていたらしく廃墟みたいな佇まいでしたけど、もうそこに立った瞬間に「ここだな」と決めていました。花園神社にも定期的にご挨拶するようにしています(笑)

いらっしゃるお客さまの反応はいかがですか?

見つけた時や入って来たときの居心地の良さの方を重視していたので、始めから立地自体はわかりにくい場所でいいと思っていました。SNSなどの利用で、自分たちでどんどん発信できる時代ですし、販売という点においてはオンラインもあって、場所にとらわれる時代ではありません。だからこそ場所自体は目的を持って来ていただけるようにしたいなと考えていました。

立地だけでなく、商品の佇まいや僕たちのスタンスも含め、ちょっと敷居を高くしている部分もあります。憧れの人に会うとか、何か目的とするところに着くのってドキドキしますよね。そういう緊張感って大事だと思って。近郊だけでなく地方や海外からも、この店を目指して来られる方がたくさんいらっしゃいます。ファッションってどこかクローズな感じというか、社会とのつながりが若干断たれた世界みたいな感覚に映っている感じがあんまり好きではなかったので、そうした内面的な表現も一つ「新宿」でやっているということで表現しているように思います。多店舗展開するつもりは初めから全くないのですが、ここが一つの「場」であること、「集えるパブリックな場所」であればと思っています。

「Make the impact」「Make the blue rose」「Make the place to be」(衝撃・世にないもの・行くべき場所を作る)をコンセプトにオープンされましたが、最初の思いから3年が経過して、今どのように感じられていますか?

最初に考えていた構想から、進められたことは多分60%くらいです。でも当初考えていなかったところも40%以上くらい広がっていると思います。
今はオープンの頃のように、単純に派手なことをやってインパクトを与えられるような時代でもなくなってきていると感じます。SNSといった情報発信の在り方も変わり、早い時代の流れのなかで同時多発的に価値観が多様化するなど、世界全体が変わりました。「多様性」といった言葉一つとっても、以前はそれほどキーワードとして上がっていなかったと思います。

3年前、ファッションの流行でいえばノームコア(モノトーンなどシンプルな装い)があったり、台頭してきたファストファッションがますます広がりを見せたり、断捨離ブームの最中でもありました。それは僕個人の感性で表現すると「退屈な時代」だったんです。そんな時、僕と同じように今ファッションが面白くないと思っている人が他にもいると気がついて、年齢や服のジャンルに関わらず、「今、世の中が退屈だと思っている人、新たな変化を求めている人」をターゲットに店を立ち上げたいと行動を起こしました。行き場がないと感じていた人々に対して、強いインパクトやショックを与えられたらと思ったし、今に比べてそれは簡単にできたと思います。

世の中の価値観の変化はファッションにも大きく影響してきます。心に残るために絵的な美しいものだけを提供しても、今は届かないと思っています。例えば、昔はインパクトのある写真だけを作ってそれを見せていればよかったものが、今はその写真を作るために参加者を募り、当事者をより多く増やす努力をしたり、背景や製作プロセスそのものを見せたり、写真だけでなく動画にして情報量を増やして見せたりする方が、表現する上でより響くのではないかと思います。
リアルに見えるところと、見せずにわからないままであるところとのバランスは大事です。全部伝えればいい訳ではないし、わからないことが逆に人の興味をそそることもあります。完璧でなくて未完成ゆえに、「僕だったらこうしたいのに」と思わせるだけの余白を作るなど、常に表現方法は意識していたいと思います。これというアプローチが出来上がったときにはもう時が流れ、次のやり方を考えなくてはいけなくなるので、難しいんですけどね。取り巻く世界が変わってきたからこそ当初計画していたアプローチは考え直しながら進みたいと思っています。

この先、どのような思いを発信していきたいと考えていますか?

考えていなかったけれど進んでいる部分にも重なるのですが、従業員の在り方や雇用について考えていきたいと思っています。「働き方改革」というと、就労時間や残業時間などにフォーカスされがちですが、もちろんそれも1%か2%のファクターではありますが、僕が考えているのは「価値観」についてです。テクノロジーが進み世の中が変わっても、人が幸福であること、豊かであることにベクトルを向けるというのは絶対に変わらないことだと思っています。「働くこと」それ自体に対する考え方をそれぞれに養ってもらいたいというのもありますし、その視点からスタッフの在り方、雇用の在り方を、もっと自由度や、自分たちなりのユニークさで表現していけたら、と考えています。

食べ物やインテリア、建物など「モノ」っていろいろあると思うんですけど、僕にとっての「ファッション」は、常に想像以上のモノを与えてくれる「予期せぬモノ」です。服を買わない人生、同じものしか着ない人生と、その時々の自分の気持ちや、その時出会った人や何らかの影響でブレブレになりながらも、いろいろ良かれと思うモノを買った人生では、僕は圧倒的に後者の方が豊かな広がりがあるのではと思っています。もちろんいいことも悪いことも起こります。でもそんな振り幅がある方が豊かではないかと仮定していて、僕はそれに一喜一憂していたいんです。モノはそれを与えてくれると思うんですね。

モノは「人」が作っているからこそ自分が作るものとは違う、自分が想像する以外のモノなんですよね。それはつまり人と繋がることができるツールで、「ウェアラブル」であるファッションは特にデザイナーや洋服を扱う店、スタッフなど、一番カジュアルに人と繋がれるツールではないかと思います。

インタビューの最後、「ウェアラブル端末とか、ファッションにおけるAIやIoT(家電や家、車などあらゆるモノがインターネットで繋がり自動で通信したり動いたりすること)にも今すごく興味があるんです」と話す藤田さん。この先も、唯一無二の空間からの発信、表現スタイルに注目していきたい。


 関連リンク 
「THE FOUR-EYED」
https://www.thefoureyed.shop/

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