「モノ」と「コト」の先にある人の感情を動かしたい
新宿・歌舞伎町にある
「BOOK AND BED TOKYO SHINJUKU」

2020.01.17

2018年5月、新宿の「歌舞伎町シネシティ広場」に隣接するビルの8階に、2,400冊に及ぶ本と、「シングル」から「スーペリア ルーム」まで55のベッドスペースを備えたホテル「BOOK AND BED TOKYO SHINJUKU」がオープンした。

宿泊せずにソファやベッドで読書を楽しんだり、カフェで食事をしたりすることもできる。運営はアトリエブックアンドベッド株式会社(豊島区)で、2015年に本店となる1号店を池袋にオープン後、京都、福岡、浅草に店舗を展開した。5店舗目としてオープンした新宿店は1フロア305㎡で、旗艦店ともいうべき最大規模を誇る。(2019年12月現在、心斎橋を含め全6店)

オープン前後から「泊まれる本屋」「思う存分好きな本に没頭したまま寝落ちできる最高の至福体験」など、各方面でそのユニークな存在が話題を集めてきた。本に囲まれたホテルのアイディアはどこから生まれたのだろうか。ディレクターの力丸聡さんにお話を伺った。

ホテルという事業を企画する中で、「寝るってなんだろう」と考えたんですね。
ちょうど身内の結婚式でリゾートにある五つ星ホテルに宿泊する機会があって、部屋に入ると眺めもすごいしベッドもふかふかで、アメニティも充実している。そんな空間に「泊まりたい」「寝たい」っていう気持ちはもちろんありましたが、実はステイの中で僕が一番「あぁ、この瞬間に寝たい」って実感したのは、お酒を飲みながら友達と話していて、「楽しい〜!」と感じたその時だったんです。そうしたきっかけもあり、すごく幸せな気分になったその気持ちを生み出すものは何だろうと思ったのが着想の原点です。

だから「本」という「モノ」的な考え方からではなく、「寝落ち」という「コト」でもなくて、モノやコトの先にある「感情」からこのプロジェクト自体も始まっているんです。寝る時にどういう気持ちになっていたらいいのだろうか、逆にどうしたら「寝たくねー!」という楽しい気持ちになれるのか。そこからするべきこと、あるべきデザイン、必要なプロダクトを考えていきました。最終的には人の感情を動かしたいと思って作っているんです。

「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」(渋谷区)が選書する幅広いジャンルの本が並ぶ

「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS」(渋谷区)が選書する幅広いジャンルの本が並ぶ

近年「モノじゃなくて体験が大事」とも言われる時代の流れにあって、力丸さんは「そもそもモノの消費もコトの消費も、相互に両立しないような別モノとは全く思っていない」と話す。

「泊まれる本屋」というコンセプトや、「ブラック」をテーマカラーに併設したカフェの真っ黒なメニューなどは珍しくもありスポットを浴びていますが、実際根っこにあるのは、自分たちが毎日の生活の中で持った感情などをきちんとピックアップし、商品に落とし込んで作り上げていくということです。

本は「モノ」ではあるけれど、読めば「コト」にもなるわけです。1冊本を提案すれば、どんな内容の本かなど掘り下げ、自由に体験を想像してくれる人もいますが、今は情報量が多すぎて、体験のイメージまで伝えないと深く考えたり感じたりしてもらえないと思っています。だから世の中で言われている「コト消費」とは実は考え方が違っていて、僕としては「こんなシーン想像できますよね」「この商品を使ったらこういう思いになれるよ」というところまでをわかりやすく提案する、という認識の上での「コト」なんですね。
「好きなことをしているうちに寝落ちした」とか「旅先で知らない人と話して仲良くなった」という体験は多くの人にあって、その時のなんだか楽しい感情って想起されやすいですよね。根本的にそこからスタートしているので「あー、わかるその気持ち」と共感を得られやすいです。コンセプトも内装デザインもわかりやすく作られたように見えますが、「どういう気持ちを持たせるか」というところから作っているというのはなかなかないと思います。

内装デザインは、軍司沙織さんが設立したインテリアデザインスタジオ「Indigo」が手掛ける

内装デザインは、軍司沙織さんが設立したインテリアデザインスタジオ「Indigo」が手掛ける

実際、内装作りについてもそのアプローチは独特だ。力丸さんが心がけたのは、「あえて新宿というコンテクストを掘り下げない」ことだったという。

東京の主要な街に出したいと考えていたし、出店には物件との出会いもありましたが、新宿という街には何の印象も持っていませんでした。歌舞伎町やオフィスビル群、大型商業ビルなどそれぞれのスポットにはある程度イメージがあっても、ファッションとか何かキーになりそうな店があるかといえばそうでもなくて、新宿全体を捉えると僕自身は印象がない街だなと思っていたんですよね。

グラフィックデザインは、アートディレクターの柴田ユウスケさんとタキ加奈子さんによる「Soda design」が担当

モノを作る時って普通すごく掘り下げますが、そうすることで実はユーザーにわかりづらくなってしまう部分もあると思います。ユーザー目線でいたいからこそ、あえて掘り下げない。
特に内観はその場所に引っ張られすぎないようにというのは考えています。例えば京都に出店したいと考えた時、京都っぽさを前面に出しても地元の人は興味が持てないと思うんですね。僕らが作り出したいのは、旅行者だけでなく「地元の人も楽しんでくれている」という状態で、作り上げたスペースにいろいろな人が来て混ざり合っているというのも、僕らが提供できる体験の一つです。新宿店の内装も、ネオン街をイメージしたラインライトやミラーボールといった、わかりやすくフックになりそうな部分を入れていますけれど、ちゃんと中庸性を保っているというのはあります。

コーヒーは「Coffee Supreme」「Fuglen TOKYO」の焙煎した豆を使う

コーヒーは「Coffee Supreme」「Fuglen TOKYO」の焙煎した豆を使う

そうした店作りにあって、最も大事にしたのは「スタッフ」と即答する。

内装はフラットなところから立ち上がっているけど、「人」はその街に根付いています。具体的には、それぞれの土地で「ある程度影響力を持てそうな人」をリクルーティングしています。東京はエリアも大きいので、新宿店はキーとして牽引していきそうな「カフェ」に強いであろう人などに声を掛けました。SNSといった個人の発信から、フォロワー数にはそこまでこだわらずにどんどん発掘して、「新しくオープンする店とフィットすると思うんですけどどうですか?」と直接連絡していきました。大抵びっくりされましたけど、そこは時間をかけて進めた部分です。

立地柄インバウンドも多いが、オープン1周年を経た現在も女性を中心に都内近郊や地方から「この店」を目指して来る人が多い。カフェも土日は1時間半〜2時間待ちの人気だ。

今まで歌舞伎町に来なかった人や、ちょっと行きづらいと思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、この店に行きたいと思って来てくれるというのは、手前味噌ですが新しい流れを作れたのではないかなと思っています。
カフェもホテル部分と同様「どういう形でどういう気持ちにさせるか」というところから考えています。「観光地型のカフェ」とよく言うんですが、歌舞伎町の奥の方まで足を運んでもらうためには、わざわざ行きたいと思えるコンテンツが必要です。店のブランドのカラーに「黒」がけっこう出てくるので、そのまま入れてみるのもおもしろいと思い、炭などを使った黒を基調にしたメニューを提供していますが、アメリカでは健康志向の高まりや、整腸、デトックス効果などが注目され、すでにブームから根づいてきている素材でもあります。

最後に、今後どのような展開を考えられているのかについても伺った。

これまでもシーシャ(水タバコ)を吸うイベントなど実験的にいろいろやってみたんです。たまたまどこかでシーシャを回し吸いしているのをみて、その「コミュニティ感」がいいと思って。カフェってみんな個々にご飯を食べているけれど、夜中になると宿泊者同士が集まってきて話していたりするんですね。それは長時間滞在するからこそなのだけど、そうではない形でこちらから似たような気持ちにさせるためのツールとしてシーシャは合うと思ったし、実際思い描いたような雰囲気が生まれました。

宿泊者のコミュニティ、そのつながりの中で生まれる楽しさのようなものを今後はカフェでももっと作っていけたらと思っています。チェーン店のカフェにはできなくても、地域に密着して、常連さんがいるような喫茶店はそれができていると思うんです。お客さん同士が勝手にみかんと大根とか交換してそうじゃないですか。それって最高だと思うんですよね。
そんな雰囲気、感情をみんなが持てるようなコンテンツ作りをしていきたい。本当に店作りから始まり、全てそんな感じで作っているので、全然新宿のことを考えていないです(笑)
でも異物ながら、もしかして新宿の街を作っている人が全体を見渡した時に、「新しい人の流れを生んでいる」「違う文脈で街を作ってくれている」と受け取ってくれていたら嬉しいな、と思います。

 関連リンク 
BOOK AND BED TOKYO SHINJUKU
東京都新宿区歌舞伎町 1-27-5 歌舞伎町APMビル 8階
http://bookandbedtokyo.com/shinjuku/

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