民芸を愛する夫婦が始めた店がルーツ
歌舞伎町で長く愛されるとんかつ店を手掛ける「株式会社すずや」社長
歌舞伎町タウン・マネージメント代表 杉山元茂さんインタビュー <後編>

2021.01.27

歌舞伎町の「すずや新宿本店」ほかでとんかつ店を営む株式会社すずや代表取締役社長の杉山元茂さん。前編では日本の民芸を愛した杉山さんの叔母叔父夫婦が始めた「すずや」の歴史と、家業を継がれたお話を伺いました。今回はその後編、歌舞伎町タウン・マネージメント代表も務められる杉山さんに、歌舞伎町について、街との関わりについてお聞きします。

これまで歌舞伎町の街をどのように捉えられていらっしゃいましたか?

生まれ育った街でしたが、若い頃はどちらかというと嫌だなと思っていました。安保闘争があった60年代は高校生くらいだったと思いますが、バリケードなどを見に行ったことはあります。そうした景色から思い出す新宿は「学生の街」というか、学生の怒りのような、どちらかというと反体制的なエネルギーが街のあちらこちらに散りばめられていたように思います。
ジャズ喫茶など個人的に魅力を感じるスポットもありましたが、街全体としてみるとあまりにも多様で自分はあまり馴染めない、そんなふうに感じていました。

例えばファッションだったらトラッドな人が多い横浜元町や原宿あたりには共感が持てましたが、新宿にいるとさまざまなファッションの人がいて、なんだかダサく見えたりもしました。若さゆえの価値観や、ちょっとした嫌悪感もあったのだと思います。
自分がいい年になってそうした多様性を受け入れる街の「懐の深さ」こそが、まさに新宿の魅力だと思うようになりました。昔から昼には学生や、伊勢丹帰りの買い物袋をさげて家に帰るようなおばさまたちがいて、夜はまた違った人たちと、本当にどの街よりも色々な人が集まっていてエネルギーがありましたが、今も当時もその新宿の多様性は変わらないと思います。

「すずや」移設後、劇場通りに新築されたビル「すずや」移設後、劇場通りに新築されたビル

「歌舞伎町タウン・マネージメント」代表を務めるなどまちづくりにも関わられていらっしゃいますが、それはどのようなきっかけからでしょうか?

今お話したように「家業を継ぐ」という思いで店に入って仕事を始めた時には、まだ街に対しての思い入れはあまり芽生えていませんでした。ビジネスの拡大といった方向に関心が向いて、20年くらいはとにかく「商売で世の中に貢献していきたい」と一筋に邁進して街のことからは遠ざかっていました。
やがて、一軒で継いだ時よりは大勢のお客さんが支店も含めて毎日来てくれるようになり、ある程度貢献できるようになったとの思いを持ったと同時に、では「この先」と考えてみた時、自分の中に「歌舞伎町が好きになってきた」という思いがありました。

受け入れられるようになっていたというか、商売だけではなく街もひっくるめて「自分のこれからの半生は街に軸足を置いていくものなんだ」ということが腑に落ちました。それは50を過ぎた頃ですが、いろいろな時代背景もあったと思います。バブルの終焉があり、また44人が亡くなった「歌舞伎町ビル火災」(2001年)は、それこそ自分たちの商売も脅かされてしまう危機感と共に、街もかなり悪い部分が目立つようになってきてしまったと感じました。放っておいたら大変だと思いましたし、そうしたいろいろなことを含め、街への意識が強くなっていきました。ここ最近では、子供たち世代の30代、40代が仕事も忙しい時期に、街のことにも一生懸命関わっていて、本当に偉いなと感心していますし、うれしく思っています。

棟方志功が手掛けた「新宿すずや」のメニュー棟方志功が手掛けた「新宿すずや」のメニュー

今改めて、歌舞伎町はどのようなところが魅力だと思われますか?

「懐深い街」というのがやはり街の持っている良さではないかと思います。大小さまざまな店がありますが、街に来た方には店のご主人やママさん、店長さんといった「人」とつながって欲しいなと思っています。そうすれば結果として街のことも知ることができますし、もしかしたら好きにもなってくれるかもしれない。人とつながるような街になって欲しいと思います。コロナ禍で状況としてはまだまだ厳しいですが、街において人とつながっていないような部分は、やはり非常事態が起こると弱いと思います。
歌舞伎町を含む新宿駅周辺、西新宿エリアで執り行われる「熊野神社」の例大祭もそうですが、ほかの街からその日一緒に神輿を担ぎたいと集まってくる人は、そのような人と人のつながりを求めて集まってきてくれているんだなと思います。そうした思いで街に来てくれるお客さんも大事に、街の人間の誰かがつながっていくようなことを積み重ねていくことは、祭りでも街づくりでも共通してポイントだと思います。

歌舞伎町の未来に期待されることはどのようなことですか?

どんなに時代が移り科学技術が進化しても、今お話したような「人と人とのつながりが味わえる・実感できるような街」になっていけたらと思います。歌舞伎町はエンターテイメントシティでもあり、「エンターテインメントとは何か」といったようなことを、街のさまざま集まりでブレストする機会もあります。それこそ非接触型やバーチャルなものが増えつつある中で、まさに「人」でしかできないエンターテインメントが育ち、街にさまざまなコンテンツを増やしながら、そうした人と来街する人の接点が増えていけば、それがまた街の魅力になっていくと思うので、最後はやっぱりそこを目指していけたらと思います。歌舞伎町という街はまだまだポテンシャルに満ちていると思います。

 関連リンク 
「すずや 新宿本店]
東京都新宿区歌舞伎町1-23-15 SUZUYAビル5階
https://www.toncya-suzuya.co.jp/index.html
*営業状況など最新情報は店舗、またはHPなどでご確認ください。

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