街なかにライブハウスが多く点在し、音楽の街として知られる歌舞伎町の音楽シーンが今また新たに熱を帯びている。4月14日に開業を迎える「東急歌舞伎町タワー」の地下階にオープンするZepp Shinjuku (TOKYO)(以下Zepp Shinjuku)は、SUPER BEAVERによる「都会のラクダ 杮落としSP〜新宿生まれの、ラクダ〜」を皮切りに全4アーティストによる「Zepp Shinjuku (TOKYO) OPENING SPECIAL 4DAYS!」を展開することを発表した。
開業に先立ち、建物に面した歌舞伎町シネシティ広場では2022年から歌舞伎町商店街振興組合が主催する「Kabukicho Music Live」も開催されてきた。今回は歌舞伎町で「新宿LOFT」などライブハウスを運営する株式会社ロフトプロジェクト 代表取締役の加藤梅造さんをお迎えし、株式会社TSTエンタテイメントの貴島邦彦さん、北村隆裕さんと共にお話を伺った。
編集部:
加藤さんはライブハウスを通して歌舞伎町と長く関わられていると伺いました。昔からライブハウスは多かったのですか?
加藤さん:
もともとアルバイトで入ったのですが、それが新宿の富久町に新宿ロフトプラスワンが開業した後の頃でした。店舗が1998年に新宿コマ劇場(現・新宿東宝ビル)の隣にあるビルの地下に移転することになって、歌舞伎町は今とは少しイメージが違いましたが、店の規模も大きくなるし面白そうだと思ったのを覚えています。さらにその翌年、西新宿で営業していた新宿LOFTもビルの取り壊しに伴い、偶然にもロフトプラスワンの近くに移転しました。歌舞伎町に引き寄せられたと言いますか(笑)、街とはそれからの付き合いです。
新宿LOFTは1976年創業ですが、80年代の歌舞伎町はどちらかというとディスコやクラブが中心で、ライブハウスはまだ少なかったように思います。ACB HALL(アシベ ホール)は昔からありましたが、90年代にはうちも移転してきましたし、ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町内にはリキッドルーム(その後移転)がありました。ライブハウスとしては規模の大きかった日清パワーステーションへ歌舞伎町辺りからぞろぞろ歩いていく人たちもよく目にしました。新宿コマ劇場があった頃は、北島三郎さんの公演などにバスで団体のお客さんがたくさん来て、比較的高齢の方々で賑わいつつ、ライブハウスに来る若いお客さん、ホストクラブの人たちなど老若男女さまざまな人が入り混じっている感じが新宿らしくて面白かったです。もともと新宿にはジャズ喫茶がたくさんありましたし、ディスコ文化があって、ライブハウスが増えてと、ずっと音楽と関わりの深い街なのだと感じます。
編集部:
「Kabukicho Music Live」も回を重ねてきましたが、どのような意図で始められたイベントだったのでしょうか?
貴島さん:
東急歌舞伎町タワー内にはZepp Shinjukuと、その夜間の時間帯を活かしたナイトエンターテインメント施設ZEROTOKYOを展開しますが、歌舞伎町には新宿LOFTさんをはじめライブハウスが集まっていることや、それに近い業態のものがたくさんあったという歴史があります。そうした街に我々が新たに建物を建てた時に、地域のみなさんとこれからどういうことが一緒にできるかを考える中で、音楽は一つの切り口になると考えました。建物内でもライブ公演が行われますが、建物の外にも音楽が溢れるような街を目指すことは、もともと歌舞伎町が進めてきたまちづくりの文脈とも合うと考え、企画を進めてきました。
北村さん:
Zepp Shinjukuの収容人数はスタンディングで約1,500人とライブハウスの中では中規模ですが、やはり駆け出しの若いアーティストが簡単に公演を行える場所ではないと思うので、何か一緒にできることはないかと議論してきました。彼らが街に来て歌えるような場所を作り、より歌舞伎町に音楽の要素を加えていくことができるよう考えたのが「Kabukicho Music Live」です。「路上ライブ」をキーワードに、路上を中心に活動しているような若いアーティストを集めて行うライブで、新宿LOFTさんにもご相談しながら、昨年の11月、今年の2月、(3月は雨天中止)にそれぞれ2日間、歌舞伎町シネシティ広場で開催してきました。
SNSの発展とともに路上ライブは近年再び盛り上がっていて、TikTokといったデジタル上での発信はいろいろありますが、例えば弾き語りのアーティストなどリアルな場でお客さんに音楽を届けたいと敢えて路上ライブを行う人は多くいます。新宿でも南口エリアを中心に盛んに行われていますが、安心して安全にパフォーマンスができる場所ではないという課題を感じていましたので、安心して安全に歌えるような場を歌舞伎町で提供しようという思いもありました。
編集部:
反響はいかがでしたか?
北村さん:
ストリートで公認のライブができることをアーティストもお客さんもすごく喜んでくれていると実感しました。歌舞伎町という繁華街の中心にあれだけ広々とした空間があるということ自体、希少性が高いと思います。そこでライブができるのは非常に貴重なことだと思います。
貴島さん:
前回開催した際に、広場で演奏したアーティストがその後コアなファンたちと一緒にロフトプロジェクトさんが手がけられている「ROCK CAFE LOFT」というロックバーに移動して二次会的なライブをされているのを見て、なるほどと思いました。コアファンと非常に距離が近く、密なやりとりができるロックバーでのライブと、その方たちを含めて新たに関心を持ってくれる人たちに向けた広場でのライブ、その両方をできるというのはこのエリアの良さだと思いましたし、今後一緒にできることもあると実感しました。アーティストの方が「一期一会があるのが屋外ライブの良いところ」だとおっしゃっていましたが、そうした出会いを作っていきたいですし、歌舞伎町が「音楽の街」だと思ってもらえるよう、アーティストを後押ししていきたいと思います。
加藤さん:
文化というのは裾野が大事だと思っているので、東急さんが広場での屋外ライブから施設内の大きなステージまで幅広く手がけていらっしゃるということがとてもいいと思いました。今はネット上での配信やライブハウスでのライブ、フェスのステージに出演するなど新人がデビューするチャンネルがいろいろあって、路上ライブもその一つだと思います。広場で歌っていた人が、翌年にはZepp Shinjukuで公演を行うというようなサクセスストーリーも生まれるのではないかと期待も膨らみます。
編集部:
街に来るとさまざまな音楽に出会える、そんな体験がこれから増えそうですね。
加藤さん:
街がどんどん面白くなっていくことは、ライブハウスにとっても喜ばしいことです。新宿の街に遊びに行くという楽しさは今後より高まっていくと思いますが、そこに音楽や映画、演劇、アートがあって、路上でも何か面白いことがあるというのはとても豊かだと思います。若い人たちにとって、街で遊べる、時間を過ごせる経験はとても大事ではないでしょうか。懐が深いとか、誰でも受け入れるといった新宿の魅力をよく耳にしますが、街の魅力を東急歌舞伎町タワーは生かしながら共存していこうとする姿勢があるように感じます。互いに協力し合いながら、相乗効果で街が盛り上がっていくことを期待しています。
北村さん:
Zepp Shinjukuで初日に公演するSUPER BEAVERのボーカルの渋谷龍太さんは、歌舞伎町で生まれ育って、新宿LOFTさんでも多数ライブを行ってきたアーティストです。地元で一歩一歩活動されてきたそうしたアーティストがZepp Shinjukuの杮落としのステージに立っていただけるというのも大きなメッセージになるのではないかと思います。東急歌舞伎町タワーにいらっしゃる方は少なからずエンタメが好きな方が多いと思うので、街なかで偶然耳にしたライブで、一人でも好きなアーティストに出会ってもらえるような機会が作れたら嬉しいです。
今までにできなかったような歌舞伎町シネシティ広場の活用方法も含め、ライブハウスなど地域の方々と一緒に取り組むことで、それぞれ単体ではできないようなことにもチャレンジしていけるのではないかと思っています。建物が開業してからがスタートです。
貴島さん:
路上、大きな施設とそれぞれの良さがありますが、小さい場から大きいところまで全部揃っていて、それが有機的につながっているという形を目指さなければいけませんし、それらが掛け合わさって初めて文化になるということを最近感じています。「Kabukicho Creator’s Gallery Project」といった映像クリエイターを応援するプロジェクトも展開していますが、音楽や映像など何か新しい表現を始めたいという人たちがここを目指して来てもらえるようにすることが大事ですし、それが街の魅力をより高めることにもつながっていくように思います。新宿ゴールデン街に集まる人々など新宿の街にはそうしたDNAがもともとあると思うので、これまでの歴史を引き継ぎつつ歌舞伎町が発展する姿を地域の方と一緒に描いていきたいと思います。