「東急歌舞伎町タワー」ならではの新業態も
“体験”を軸にしたエンタメと食のフロア展開

2023.04.12

「東急歌舞伎町タワー」に開業するホテル劇場映画館ライブホール・ナイトエンターテインメント施設を紹介してきた本サイト。今回は1階から5階のフロア構成(1階に全7店舗、25階にフロアごとに計4施設がオープン)についてご紹介したい。歌舞伎町という立地、そしてホテルとエンタメの超高層複合施設内での展開だからこそ面白いことができれば、とリーシングにもこだわりを持って臨んだという。東急株式会社新宿プロジェクト企画開発室で商業リーシング(テナント誘致)初期のコンセプトを担当した飯沼伸二郎さん、営業担当の桶谷武彦さん、ハードと商環境デザイン、テナント工事監理を担当した服部征起さんにお話を伺った。

編集部:
リーシングに関してはどのようにコンセプトを考えられたのでしょうか?

飯沼さん:
商業施設というとSC(ショッピングセンター)などに見られるように、大抵はアパレルをはじめとした複数の小売店舗、飲食店などが多く出店していますが、歌舞伎町という土地柄、どういった切り口が良いかを話し合ってきました。開業まで56年の時間を要すること、モノより体験に価値が一層置かれるようになると考えていたこともあって、館の用途と連携した「エンターテインメント」と、広義の“体験”という意味での「食」を軸にしようと決めました。
もう一つ、100テナント、200テナントが並ぶようなSCは多くの店がたまたま隣合わせただけで、他店舗との関わりをあまり持ちません。でもこの建物では劇場や映画館、ライブホールなど、他の施設に行く前に立ち寄れるような店、施設での体験を楽しんだ後に行けるような店といったように互いに連関していることが理想だと考え、コンセプトをまとめていきました。

1F(左から)「和牛特区」「KABUKI BURGER & TACOS」「スターバックスコーヒー」

編集部:
出店を考える企業のみなさんの東急歌舞伎町タワーへの反応はどのようなものでしたか?

飯沼さん:
一部のイノベーター、感性の合う方々たちは、ホテルとこれだけのエンターテインメント施設が同居している建物は見たことがないし、一緒にチャレンジしたいと非常に高い関心を示してくださいましたが、一方で大多数がリスクだと感じられていたように思います。当時、企業の方々をお連れして歌舞伎町内のツアーも行ったのですが、思った以上にインバウンドが多いことや、新宿ゴールデン街やロボットレストランといった人気のスポットがあることなどを実際に見られて、「自分たちが知っている歌舞伎町と全然様相が違う、面白い街になっている」と感じ取ってくださる方が多くいらしたのが印象的でした。

1F(左から)「BON LUMIERE VIVA HOKKAIDO PROJECT」「ex.flower shop&laboratory SHINJUKU」

「宅配サービス ヤマト運輸」「観光案内所」

桶谷さん:
私は2021年からこのプロジェクトに加わりましたが、それまで10年以上の間、歌舞伎町には足を踏み入れていなかったこともあり、来てみて街が安全になったという実感を強烈に持ちました。テナントさんと話をしていく中でそれをどのように伝えていけば、みなさんが納得してこの場所で事業をしたいと思ってもらえるようになるのかは、いろいろ悩みながら取り組んできました。
コロナ禍でどこの企業も厳しい状態にあった中で歌舞伎町という立地、建物のコンセプトを面白いと思ってくれる感性を持った人はどこにいるのかということをとにかく考えましたが、実際出店していただいた企業は、そうした状況下でリスクがあってもやろうと意思決定をしてくださった方々ばかりです。時代の先を読むというか、この施設に世の中から高い期待が集まることを予見できた人たちというのは、こういった企業の方々なのだなと知る良い機会になりました。

2F「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」(写真手前がステージ)

編集部:
やはりコロナ禍を迎え、誘致にはご苦労がありましたか?

飯沼さん:
館の目指す方向性と合わせて、この建物ならではの企画立案や他の施設との連携などもお願いしてきましたし、各フロアとも店舗面積が大きいため条件面での難しさもあったと思いますが、コロナの感染が拡大する前は世の中の流れにも勢いがあって、出店に興味があると手を挙げてくださる企業が多くありました。
感染拡大に伴い緊急事態宣言が出てからは、アポイントすら取ることが難しい状況に一変しました。ホテル、エンタメ業界も大きな打撃を受け、一時は歌舞伎町の風評被害もあり、契約直前まで進んだ出店がほとんど白紙になってしまった時は本当に大変でした。

服部さん:
出店が決まりそうな複数のテナントさんとすでにハードの検討を進めていたので、振り出しに戻るというのは非常にショックでした。当初は現在の構成とは様相が違うフロアもあって、こだわりをもってリーシングを進めていた分、デザインよりむしろ建物の構造を変えたり、設備の根幹を変えたりしたいといった要望、奇抜なアイディアが多くありました(笑)。面白いフロア構成になればと思っていましたので、ハードの面でもそれが叶うよう真剣に構造の検討を繰り返してきました。

3F アミューズメントコンプレックス 「namco TOKYO」 (株式会社バンダイナムコアミューズメント)

編集部:
最終的にどのようなフロア構成になったのでしょうか?

飯沼さん:
1階は当初から街に対して賑わいを作っていくためにも、狭小でも店舗区画が必要だと考えてきました。ビーフダイニングやモダン和牛バーガー&ワールドタコスなどの新業態、SPECIALITY COFFEE STORE、花・植物専門店、宅配サービスや観光案内所といった街や館内の施設とも連関した店舗が出店します。エントランスのある2階は「祭り」をテーマに食と音楽、映像が融合したエンターテインメントフードホール「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」(株式会社浜倉的商店製作所)、3階は株式会社バンダイナムコアミューズメントが手がける新業態のアミューズメントコンプレックス、4階は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントと株式会社ソニー・ミュージックソリューションズがやはり初のダンジョン攻略体験施設を展開します。5階は会員制のウェルネスクラブがメインで、ジムやサウナ、テラスプールなどが設置されます。
実は担当者間では新しい商業施設の在り方として「文化祭」をキーワードに、文化祭の入り口、模擬店、発表や体験の場、後夜祭といったコンセプトを各フロアに当てはめ構成を考えていました。最終的にはそうした考えに賛同いただいたテナントにお集まりいただけたように感じます。

桶谷さん:
これまで手がけてきた店舗とは違った店を作ろうという企業が非常に多いです。1階のスターバックスは屋外ステージに面していて、店頭でステージイベントがされているという制約がある中で店舗を営業していただくというスタイルです。2階の新宿カブキhall〜歌舞伎横丁も店舗に隣接してミニステージが作られていて、事業者とテナントが一緒になって有効活用しながら、施設を盛り上げていこうといった新しいチャレンジを考えていて、私自身も経験則が通じないようなことを一から作り出していくという今までにない体験が多くありました。館と各テナントが連携するという点ではハード面においても、服部さんが考えた「建物に街が入り込む」というコンセプトが両者を非常にうまくつないでくれていると感じました。

4F ダンジョン攻略体験施設「THE TOKYO MATRIX」(イメージ)

©Sony Music Solutions Inc. All rights reserved.

©2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project

編集部:
どのように商環境デザインに反映されたのでしょうか?

服部さん:
一般的に多数の店舗が連なるSCには共有通路がたくさんありますが、この建物の2階から5階は、各フロア1施設が占有しているので、エレベーターやエスカレーターの周辺にしか共有部分がありません。17階まで続く80m級の高さを貫くエレベーターホールはほとんど前例がありません。エスカレーターと合わせこの移動するためだけの共有空間に多少エンタメ要素もいれながら、何か面白い体験ができるようにしたいと考えてきて発想したのが「街が入り込む」というコンセプトでした。

服部さん:
歌舞伎町の広場や通りがそのまま建物内の各用途につながっていくようにイメージして、それをホテルやレストランといった高層階まで吸い上げたい。そのために共用部を、新宿の舗装やストリートファニチャー、サインといったものをベースに無機質なもので構成しようとしました。具体的には内装にはあまり使わない外構やその先の路面に使っている100角の床タイル(10cm×10cmのタイル)を街からの連続性を重視して内装床に使っています。商業テナントさんはそれぞれのデザインですが、そうした店舗の随所に街のネオンのような光の演出が出てくるので、共有部がニュートラルなデザインになることで、各テナントもより際立つのではないかと思います。
先ほどお話ししたエスカレーター、エレベーターホールも街の人の流れやエネルギーが集まり湧き上がっていくように考え、噴水をイメージした建物の外装デザインともリンクしながら、「FLOW」をキーワードに、光の動きや色の演出で湧き水や上昇する動きを体現しました。結果、建物内だけでなく歌舞伎町の街と非常につながりあった、良い形ができたと思います。

100角タイルをあしらった床(左)と「FLOW」をキーワードにした演出(右)

編集部:
開業目前ですが、一言抱負をお願いします。

桶谷さん:
これまでは開発部隊としてどうしたらこの館が活性化するかという軸で仕事の組み立てを考えてきました。開業して運営フェーズに移ると、ともすると管理する側の目線になりがちですが、「一緒に盛り上げる」というこれまでのマインドをどう引き継いでいけるか、どうループさせていくか、当初の思いを続けて持っていけるよう、そうしたマインドの醸成を大事にしていきたいと思います。

飯沼さん:
各フロアの出店者さんと一緒にセッションをしていますが、テナントさん同士もどのように連携していこうか会話をされるなど、つながりが深まりつつあるのを感じてうれしく思っています。我々開発チームも引き続き運営チームとして関わっていくので、築いてきたチームワークのバトンを開業後もつないでいきながら、来館者の皆さんをお迎えしたいと思います。

5F ウェルネスエンターテインメント施設「EXSTION」 ©2022 Absolute Number Co.,Ltd

Editorial department / 本文中の本アイコンは、
歌舞伎町文化新聞編集部の略称アイコンです。

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