東急歌舞伎町タワーで“好き”に出会い“極める”
第一弾は「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」

2023.04.10

4月14日に開業する「東急歌舞伎町タワー」では、28日から好きを極めるをコンセプトにした企画第一弾として「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」が展開される。
劇場では『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』が上演され、ホテルにはコラボレーションルームが登場、映画館で関連作品を一挙上映するほか、ライブホールでは『エヴァンゲリオン』関連楽曲で構成されたスペシャルライブを開催と、館全体を周りながら『エヴァンゲリオン』の世界を存分に楽しめる企画になっている。施設同士をつなぐコンセプトが生まれた背景を、株式会社TSTエンタテイメント運営事業本部 劇場運営部部長の枝村義夫さん、同社マーケティング戦略部部長の山岸一基さん、課長の飯沼伸二郎さんに伺った。

編集部:
“好きを極めるというコンセプトを掲げられていらっしゃいますが、どのようなアイディアから生まれたのでしょうか。

飯沼さん:
コンセプトづくりにおいて、開発の初期段階では、国家戦略特区の認定を目指しており、行政の上位計画である『エンターテイメントシティ歌舞伎町』を踏まえ、世界に向けてこの建物を「デスティネーション(旅行の目的地)」にしていこうと対行政や対企業を意識したコミュニケーションが多かったように思います。
株式会社TSTエンタテイメント(東急株式会社、株式会社東急レクリエーションと株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントによる合弁会社)が立ち上がり、開業が近づくにつれ、「お客様とどうコミュニケーションとっていくかが大事」という視点に切り替わっていきました。最終的に代表の木村が標榜したこのコンセプトは、世の中の「推し活」的な流れや、木村が関わってきた渋谷「SHIBUYA109」の若い人たちの動き、この館の特性などを考えると、いろいろな経験の上でつむぎ出された言葉だということがよくわかりましたし、この言葉があるから、みんなが同じ方向を向いて進んでこられたように感じます。

山岸さん:
ビルオーナーは東急ですが、各用途は貸館がベースにあるため、エンタメ施設などを借りてくれる事業者さんが提供する公演によってがらっとお客さんの層が変わります。となるとこのタワーのターゲットは誰なのかということは、この館のマーケティングを考える上での最大の課題だと思っています。
木村と一番近いところで対外的なコミュニケーションをどうしていくかをディスカッションしてきましたが、建物が目指すビジョンを描く上で館全体に共通するものは何だろうと考えた時、「好き」というものに対しての情熱はおそらく年齢や性別、国籍問わずみんなが持っている感情ではないだろうかと考えました。「好き」というキーワードはいろいろな用途を超えて体験価値を最大化できるワードだと思いますし、それを「極める」と掲げたことで、館全体を一つにまとめることができたように思います。

飯沼さん:
この建物は他のショッピングセンター等と異なり、非常に来館の目的性が高い用途構成なので、販売促進の観点からどう館を盛り上げていくかという課題もありました。そこで“好きを極める”というコンセプトを基に、IPを活かして館全体をジャックするということを一つ大きな施策にし、各用途が興行を同時多発的に行うことでPR効果を最大化するという新しい形にもトライしています。
EVANGELION KABUKICHO IMPACT」は“好きを極める”を言葉だけでなく、実際にみなさんにさまざまに体感していただけるよう趣向を凝らしています。

新宿TOKYU MILANOの壁面の様子 Ⓒカラー/EVA製作委員会

編集部:
『エヴァンゲリオン』は建物が建つこの場所にも深く関わりのある作品ですね。

枝村さん:
一つのコンテンツとして捉えた時に、いろいろな広がりが持てる作品です。館の中では劇場の演目が一番早く決まりますので、さまざまな会社さんから企画をオファーいただく中で、どの時期にどのようなコンテンツをブッキングしたらタワー全体が面白くなるか、この演目だったらこういう広がりが考えられるといったことは常に意識して進めています。
『エヴァンゲリオン』の舞台化は今回が初めてで、アニメとはまた違った新しいエンターテインメント作品になります。かつてこの場所にあった「新宿ミラノ座」で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』から『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』まで上映してきた歴史や、建設中に建物の仮囲いに『エヴァンゲリオン』をモチーフにした開発好明さんのアート作品を展示するなど、さまざまに重ねてきたストーリーの先に、ここに新しくできる劇場での上演が叶ったことは、とてもうれしく思っています。

山岸さん:
EVANGELION KABUKICHO IMPACT」は、いろいろな人の目にふれて知られると思うのですが、それを見ていただいて「うちのIPでこういうことはできないか」と思ってもらえるきっかけにもなればと期待しています。
ホテルが入った建物であることもあって、海外からの観光客も大きなターゲットになっていますが、アニメは日本発祥の文化といえるほど世界で受け入れられています。IPを活かした企画が一つのインバウンド施策の呼び水にもできたら面白いですし、“好きを極める”という施策に掛け合わせて展開していけると、他の施設にはない独自のものが作れるのではないかと思います。

シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT1 0706版の様子

編集部:
館内のさまざまな施設が連携しながら進める企画には難しさもあったのではないでしょうか。

飯沼さん:
各施設、運営する会社が異なり、商慣習もバラバラなので、最初こそ連携がスムーズにいかない場面もありましたが、各用途から一人ずつリーダーを立て、推進するチームを立ち上げることができてから、非常に前向きな流れを作ることができました。東急の中でもこれほどグループをまたいで一緒に企画を進めるというのは稀有な事例ではないかと思います。これから他のエリア開発で歌舞伎町と同じような用途構成を考える場面があれば、こうした運営を経験したチームがいるということは東急グループにとって強みになると思います。

山岸さん:
今回のような複合施設はこれまで東急でも手がけてきたことがなかったので、それ自体が新たなチャレンジだったと思います。エンタメ施設が集積していますが、運営の基盤である“ホテル”と“エンタメ施設”をどう連携させていくか、そこを重要事項として考えてきました。みなさんにホテルを知ってもらい、ホテルに滞在しながら映画館に行ったり劇場で公演を楽しんだりできるよう、さまざまな楽しみ方を提案していけたらと思っています。
マーケティングの視点からこの建物のベンチマークになるような、ホテル×エンタメ施設というビジネスモデルのベンチマークはどこだろうと考えると、ディズニーランドやユニバーサルスタジオジャパンが近いかもしれません。我々は広大な土地を活かした横に広がるテーマパークのような展開はできませんが、この館は外に出ることなくホテルやエンタメ施設を縦に自由に移動できるという利点もありますし、施設が縦に連携しあったこの館ならではの企画をしっかり手がけていければと思っています。

「HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」が期間限定で展開する「LIFESTYLE HOTEL EVA」。コラボレーション ルームイメージ (アスカルーム)

編集部:
街との連携も当初から大事にされていらっしゃいますね。

山岸さん:
EVANGELION KABUKICHO IMPACT」というタイトルもみんなでかなり議論を重ねました。「インパクト」という言葉は『エヴァンゲリオン』作品の中でもセカンドインパクト、サードインパクトといったように使われている象徴的なワードですが、それを「KABUKICHO IMPACT」とすることで、歌舞伎町の街全体にそれくらいの衝撃が与えられるようなものにしたいという思いを込めています。
建物内だけで企画が終わるのではなく、“好きを極める”施策も今後は街なかのお店や商店街の人たちとコラボして、いろいろな楽しみ方を提案していきたいと考えています。
施設に来てもらうというのももちろん大切ですが、まずはみなさんに歌舞伎町をより好きになってもらえたらと思っています。

編集部:
最後に皆さんの好き“もお聞きしつつ、東急歌舞伎町タワーで出会えるワクワク体験への期待をお聞かせください。

枝村さん:
個人的にも『エヴァンゲリオン』は放映が始まった時からテレビも映画も全部観てきた大好きな作品です。今では自分の子どもも夢中で、一緒に映画館にも行きましたし、好きなものって年代を超えて誰とでも話ができる楽しみがあります。今回、舞台化することになって、自分の中の「好き」も新しく広がるように感じています。
劇場運営部長という立場から、さまざまなスタッフに建物のコンセプトや劇場の持つ考え方を伝えながら、「東急歌舞伎町タワー、そして劇場では今までに全く体験したことのない出会いがあると思うので、一緒に楽しみましょう」とお話してきました。働く我々も、新しいワクワク感があって新鮮な気持ちでいます。

飯沼さん:
開発当初は、34人のごく小さなチームで初の試みが多く暗中模索の中、プロジェクトのコンセプトに心から共感していたので、モチベーション高くこのプロジェクトに関わってきました。私自身、休みの日にはサウナを巡るのが楽しみですが、行くたびに施設ごとの特徴に気が付いたり、作り手の想い・工夫を体感したりして、どんなことでも“好きを極めるほど、体験に対する「解像度」が高くなりユーザーの目も厳しくなると実感しています。
だからこそ、建物を作るというマクロな世界観とは違ってミクロな世界ですが、企画に連動したグッズやノベルティ作りなど各販促施策作りについてもかなり掘り下げて、どんなグッズであれば喜んでもらえるか、Tシャツの色や生地といったディティールにも妥協しないで作っていこうと進めてきましたので、ファンの方に楽しんでもらえると思っています。

山岸さん:
僕はずっとエンタメ業界と関わって仕事をしてきましたが、今回のように「建物を作る」ことは新たな経験でしたし、事業者の立場で自分の判断により大きな責任を持たなければならなかったこと、お客様に何を提供できるのだろうか深くつきつめるようになった点は自分なりに新しい知見を得られたと思っています。
「ターゲットは何歳くらいの世代を考えているのか」「一年間の来場見込み者数は」とよく聞かれることがありますが、この館はそうした数値的なデータに現れる数ではなくて「好きの深さ」で勝負するような建物ではないかと思っています。僕は野球が好きで、観にいくのもグッズを買うのも好きだし、もしホテルに好きなチームのコンセプトルームがあったらそこで過ごす時間は楽しいだろうなと思います。この館に来た人たちが、何かそれぞれの“好きを極めて”もらい、その世界にどっぷりつかってもらえるような、ほかにはない施設になっていければと思います。

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