歌舞伎町は戦後、欧米諸国に見られるような「広場」を中心にデザインされた街だ。中央に噴水があった時代もあるこの広場は、「レインボーガーデン」「ヤングスポット」などの名称を経て現在「歌舞伎町シネシティ広場」と呼ばれている。来街者が歩行し、また時に集う「広場」として親しまれているが、実は制度的には区道、新宿区が管轄する道路である。
新宿区はこの道路が歌舞伎町の街の魅力を発信する拠点になり得ると考え、その活用に取り組んできた。今回は地域活性や観光の視点から「歌舞伎町シネシティ広場」の街なかにおける役割、これまでの活用などについて新宿区文化観光産業部文化観光課長の菊地加奈江さんに伺った。
編集部:
始めに、文化観光産業部はどのような業務を担当されているのでしょうか?
菊地さん:
文字通り文化と観光と産業にまつわる部署です。文化については商店街などで行われるイベントも含め区内で行われる文化事業に関わるほか、文化団体やアーティストの活動支援、文化財の保存や活用、記念館や博物館、文化センターなども管轄しています。
観光では官民一体となって立ち上げた「新宿観光振興協会」と連携して、新宿駅東南口に設立した「新宿観光案内所」、情報誌「新宿plus」の発行などを通じて、さまざまな観光情報の発信、イベントの開催、多言語の観光マップを作成するほか、新たな観光資源の創出に努めています。産業面では、新宿区はサービス事業などの中小企業が多く中でも飲食店が大きな割合を占めています。商店街の活性化支援や中小企業への支援を担っています。文化・観光・産業がしっかりと連携して、来た方に満足いただけるような街が実現できるよう業務を推進しています。
編集部:
歌舞伎町エリアにおいては、歌舞伎町シネシティ広場が文化・観光の発信拠点の一つとして活用されていますね。
菊地さん:
2005(平成17)年に「歌舞伎町ルネッサンス」という取り組みを歌舞伎町タウン・マネージメント(歌舞伎町のまちづくりを実現するため、2008年に新宿区により設置された団体)
を設置し、始めました。区や地元の商店街振興組合、民間などが一体となり誰もが安心して楽しめる「エンターテインメントシティ歌舞伎町」を目指すもので、クリーン作戦、地域活性化、まちづくりの3つのプロジェクトを軸に動いてきました。
歌舞伎町シネシティ広場は、本来は道路ですが新たな文化の創造・発信とにぎわい作りを目指す地域活性化プロジェクトの一環として活用できるのではないかという思いから、2018(平成30)年に国家戦略道路占用事業 適用区域の認定を取りました。歌舞伎町らしいドキドキ感、ワクワク感など街の良さを残しつつ、安心して楽しめるまちづくりを考えた時、広場でイベントを行うことで街の美化や治安の向上にも効果があると考えたのです。
2016(平成28)年に広場をリニューアルして以降、社会実験としてオープンカフェやイベントなどを行ってきましたが、認定を受けたことにより、街のにぎわい創出や歌舞伎町を訪れる人々が楽しめるイベントなど広く活用しています。
これまで「新宿クリエイターズ・フェスタ」など歌舞伎町の中でアートを感じられるイベントや、映画の公開を記念したジャパンプレミアイベントなどを展開してきたほか、近年では「歌舞伎町X’masスケートリンク」やパフォーマンスイベント「歌舞伎超祭」など歌舞伎町商店街振興組合と周囲の企業、街の人たちが一体となりこの街ならではのイベントを企画・開催しています。
編集部:
文化・観光という観点から見た時、新宿の街はどのような特徴があると感じられていますか?
菊地さん:
地方からいらっしゃる若い世代や海外からの留学生が、勉強しながら自分のやりたい夢を実現したいという思いを持ってこの新宿に来てくださいます。人を惹きつけるエネルギーに満ちていますし、新宿の街はどんな人も受け入れることができる、誰かを除外しない街ではないでしょうか。そこは大きな魅力の一つだと思っています。
昔からこの街ゆかりの文化人も多く、例えば夏目漱石や洋画家の中村彝(つね)、佐伯祐三といった先人が街の随所に足跡を残しています。先代の人たちが新宿の中でいろいろな作品を作ってきたことは記念館などを通して精力的に紹介していますが、街にそのような血の通った「人」が生きていたという歴史は非常に貴重ですし、新宿が今こうしてあるのはそうした人々の活躍が積み重なってこそだと思っています。
この街で活動し何かを作り上げ、それを歴史に残していく。昔も今もそういう営みのある街なのではないと感じます。だからこそ新宿で何かを発信していく時に、歴史を刻んできた先人たちに感謝しながら、彼ら「人」が作ってきた街の魅力をしっかり私たちも発信していく必要があると思っています。
観光というのは、街が持っている遺伝子のようなものをしっかり捉えて発信していくことに価値があると考えています。その時のトレンドをただ発信するのではなく、その街にしかないものを伝えていきたい。新宿であれば多種多様な文化を大事にしたいですし、街に息づいた大衆文化の魅力というのは誰もが享受できるものなので、住んでいる人や遊びに来る人、観光で訪れる海外の人に対しても、敷居を低くというか余すことなく街の魅力を伝えていけたらと思っています。
編集部:
歌舞伎町シネシティ広場周辺では開発も進み、今後に期待する声も高まっていますね。
菊地さん:
2023年4月には広場に面して東急歌舞伎町タワーが完成し、エンターテインメントシティを象徴するような文化施設が入ると聞いています。東京都の特例措置により設置が可能になった壁面の大型屋外ビジョンや、屋外ステージも発信力が大きいと思いますので、ぜひそうした建物内外で行われる文化発信を、広場とも連携しながら進めていけたらと思っています。
広場を囲む東急さんや東宝さんはじめ、企業の皆さんも新宿・歌舞伎町のまちづくりに尽力してくださっていますので、私たちも協力し合いながら共に発信し、歌舞伎町の新たな魅力づくりに向けて広場を一層活用させていくことが重要だと思っています。
歌舞伎町はこれからまだまだ変わるのではないかと期待していますし、みなさんに楽しんでいただけるような面白い街になる可能性を秘めています。
文化というのは誰かに限られたものではなく、誰しもが享受できることが必要だと思っていますので、街角でふと音楽が聞けたり、なにかに触れたり見たりすることで自分の感性が高められたりする機会を積極的に提供していくべきだと思います。歌舞伎町シネシティ広場がそのような拠点の一つになれれば、と思っています。
(このインタビューは2月28日に行ったものです)