物語のリアルな舞台や架空の街のイメージとして、「歌舞伎町」にゆかりのある作品を紹介するコラム。第3回は歌舞伎町をはじめとする東京とその近郊で全編撮影されたWOWOWとHBO MAXの日米共同制作による超大作ドラマシリーズ「TOKYO VICE」(監督:マイケル・マンほか)を紹介したい。
1990年代の東京を舞台に展開する「TOKYO VICE」。主人公でアメリカ人のジェイク(アンセル・エルゴート)は東京の大学を卒業後、両親の思いに反し故郷には戻らず、難関試験を突破し日本の大手新聞社に就職する。物語は警察担当記者となり特ダネを追いかけるうち危険な闇社会へと入り込んでいくジェイク、彼が出会った敏腕刑事の片桐(渡辺謙)を軸にきらびやかな大都会・東京の裏の姿を描く。ほかに女性記者・詠美(菊地凜子)、裏社会と繋がりのある刑事の宮本(伊藤英明)、若きヤクザのリーダー・佐藤(笠松将)、カリスマホスト・アキラ(山下智久)らが出演する。
“世界で最も撮影が難しい都市”といわれる東京をはじめとするロケ撮影については、以前当サイトでも取り上げた東京ロケーションボックス(新宿区)が撮影支援を手がけた。東京観光財団内に設置された同団体は、東京都の窓口機関として都内での映画などの制作をサポートし、映像作品を通じて東京の魅力を国内外に発信している。
東京ロケーションボックスの遠藤肇さんは「東京でのロケ撮影にこだわり、2019年から国内での制作会社を転々としながらもその実現に向けて膨大な時間と労力を費やして完成した作品。役所や警察の協力を取り付けるなど高いハードルを越え、新型コロナウィルスの感染拡大など一時撮影中断の憂き目に遭いつつも、約1年にわたり新宿・歌舞伎町や渋谷、赤羽などを中心に撮影を行いました。バイクで首都高を疾走するショットを含め、街なかでの撮影のほとんどのシーンに当団体のスタッフが関わっています。新宿での撮影に関しては地域住民の皆さんとの対話を重ね、調整には新宿観光振興協会などにも大いに協力いただきました」と振り返る。
歌舞伎町ではSmappa!Groupが手がけるホストクラブAWAKE(アウェイク)で撮影が行われたと聞いて、運営する有限会社スクラムライス広報部の山賀成美さんに話を聞いた。
「AWAKEでは第1話の終盤で主演の二人、ジェイクと片桐が初めて会うシーンが撮影されました。スタッフの人数や機材の多さは日本の映画やドラマの3倍以上だったのではないかと思います。AWAKEは地下のテナントですが、機材をお店の前にすべて置けないので1階の空きテナントも借りていました。制作チームの方々が非常に丁寧に何度も足を運んで街の方に説明をし、理解を得ていらっしゃるのがとても印象に残っています。同じビルに入るほとんどのテナントにも事前に直接足を運んで挨拶され、撮影があることを伝えるなどトラブルがないよう細心の注意を払われていました」と山賀さん。
「AWAKE以外にも5~6話のホストクラブのシーンではAPiTS(アピッツ)というお店を使っていただいています。その撮影の際には当グループ会長の手塚マキが当時のホストクラブを演出するための監修を務めるほか、当社ホストがシャンパンコールをホスト役の方々に指導し、エキストラ出演もさせていただきました。当初、撮影をきっかけに歌舞伎町シネシティ広場で何かイベントを行って歌舞伎町全体で盛り上げられたらという話もあったのですが、コロナ禍のため残念ながら叶いませんでした。今後また機会があれば歌舞伎町の街の魅力を伝えていきたいと思っています」とも。
4月からWOWOWで配信と放送が始まったことを記念し、6月には新宿で東京ロケーションボックスによる企画展「1990’s『TOKYO VICE』の時代」も行われた。作品紹介やドラマの舞台となっている1990年代を写真で振り返るコーナーなどを設置した同イベントにはファンなど多数の来場があり、ロケ地巡りを楽しむ人もいたという。「全編日本でロケを行った『TOKYO VICE』は、国内外の映画・ドラマ制作者、業界関係者にとってエポックメイキングな出来事として記憶されることは間違いないと思う」と遠藤さん。
米 HBO Max から6月7日(現地時間)にはシーズン2の制作も発表された「TOKYO VICE」。見逃した人もこの機会にぜひスリリングな映像体験をしてみて欲しい。「TOKYO VICE」シーズン1(全8話)はWOWOW オンデマンドで配信中【無料トライアル実施中】(2022年8月15現在)。